夢の後には
最近、目を覚ましても、夢の一部が残ったままになっている。例えば昨日は、夜道を顔無し男に追いかけられる夢を見た。等間隔に並ぶ街灯を横目に、ただひたすら一本道をかけていく。いつまでも距離が近づくことはない。ただ、少しでも速度を緩めれば捕まってしまうであろう予感があった。だから脚がどんなに痛くなろうとも、走り続ける、そんな夢。夢の結末はもう覚えていない。ただ、見飽きた街灯の姿は、夢を抜け出ても身近にあったので、よく覚えている。
目を覚ました時、部屋には街灯が横たわっていた。六畳一間の部屋に横たわる街灯が、いかに侵略的かは、想像に難くないだろう。部屋の入り口の大きさを優に超える街灯。夢の中で見たとの同じように、擦れた鉄色ではなかった。抽象化されたように、曖昧模糊な存在として、部屋の中に鎮座している。元からあったと言われれば信じてしまいかねない。培った常識がアラートしなければ、きっと日常に組み込まれてしまっていたはずだ。誰に話しても信じてもらえないような光景。夢の中で何度も見ていたから、不思議と不気味さはなかった。
こういうことが、最近非常に多い。山積みのトイレットペーパー、誰かのミニカーコレクション。インクの出ないボールペンに、色紙代わりのサッカーボール。部屋はあっという間に、定義の不十分なもので埋まってしまった。うかつに夢も見られない。眠るのも警戒が必要だ。浅い眠りでは夢を見てしまう危険があるから、睡眠の質には一層気を遣うようになった。それでも必ずではなくて、時をまたぐたびに、また一つ、また一つとよくわからないものが増えていく。
ただ、デメリットばかりでもない。メリットを打ち消して余りあるほどのデメリットがあることは確かだ。しかし、この「夢の顕現」には使い道がある。
例えば、食品をうまく出せれば、何日か分の食費を浮かすことができる。先に挙げた山積みのトイレットペーパーのおかげで、スーパーの買い出しが楽になった。コントロールさえできれば、うまく付き合っていくこともできるだろう。
けれど、一度、ヘマをしてしまった。出すべきでないものを出したのは明らかだった。彼女は今、押し入れに隠してある。同じクラスの某女。夢に出てきてしまったために、顕現してしまった。言い訳のしようもないだろう。カッコ悪いことこの上ない。感情に気づく契機はさまざまにあるが、このような形になろうとは思っていなかった。
人間が顕現して、動くことはなかった。目に光はともっているのに、ピクリとも動かない。定義が不十分だったのだろうか。動くに足る情報がなかったのだろうか。あるいは、夢の顕現物には生きて動くだけのエネルギーがないのだろうか。
たとえ世界が滅びても、夢を見続けることさえできれば、生き続けることはできるだろう。ただ、寂しさを紛らわすには、どうにも不十分なようだ。
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