家族の秘め事

 家族がもう一人いる気がしてきた。何も、根拠なくそう言うわけではない。まず証拠を一つ提示しよう。この、一枚の皿。これは、僕が大学から帰ってきたときに、食卓の机の上で見つけたものだ。食べ後で汚れているだろう? 両親とも今朝仕事に出たのは僕が見届けたし、あとからそれとなく聞いてみても、一度帰った様子はなかった。僕に兄弟姉妹がいないのはご存じの通りだ。このことから、この汚れた、食べかけのような皿は、僕たちがこの家にいない時間帯に、誰かによって、為されたものであることは明らかだ。

 そう聞くと、盗人か、あるいは屋根裏の小人か何かの仕業だと言いたくなるだろう。それはテレビ番組の見過ぎだと釘を刺しておく。もちろん、テレビをよく見る僕は、その可能性も考えて、家の中を隅々まで見て回った。文具のキリを握りしめて、だ。キリがあれば大抵の相手は屈服させられるだろう。しかし、そう広い家でもない。何度か家中を検めたけれど、何一つ、部外者の痕跡は見つけられなかった。

 ならば、もう一人の家族もいないのではないか。ここまでの話だけを聞けば、そのように茶々を入れたくなるのもわかる。そこで重要となるのが、この第二の証拠なのだ。

 これは、テレビの真似事で僕が家の中にこっそりとしかけたカメラの映像だ。もし殺人鬼などが紛れていて、タンスの中に隠れでもしたらたまらない。留守中に屋根裏から侵入者がのこのこと出てきたら滑稽だ。結論から言えば、どちらも写っていなかったわけだが。

 見てほしいのは、この部分だ。先週の土曜、僕が遊びに出ている時だ。両親は二人とも在宅していた。その時の動きが、どうにもおかしかったのだ。あたりを異様に気にするようにして、その後、何もないはずのところにむかってぶつぶつとつぶやいている。残念ながら内容までは特定できなかった。ただ、談笑しているように見える。そして、映像のこの部分。彼らは、三人分の食事を用意して、食卓を囲んでいる。もちろん、僕はいないというのに。

 これは異様ではないだろうか。正直に言おう。僕は僕の両親を疑っている。彼らがきっと、僕に何か重大な秘め事をしているように思うのだ。家族の間だ。当然に、秘密はあってしかるべきだろう。個人のすべてをひけらかした関係なんて、たとえ血がつながっていても御免こうむりたい。だから彼らを責めることはしない。ただ、僕にはこのもう一人の存在が、気になって仕方ないのだ。

 僕がこのような話を君にしたのは、もう一つ理由がある。それは、君がその「もう一人」だと確信しているからだ。この映像には、君の姿は一つも、ひとかけらも写っていなかった。用心深い君のことだ。そこは抜け目ないだろう。ただ僕が日々を過ごす中で、ふとした瞬間、振り返る瞬間などに、視界の端に君が隠れていくのだ。これはもう、僕の中では確信になっている。どうか正直に答えてほしい。決して僕は、君を嫌ったりしない。むしろここで不正直な態度をとられるほうが、今後に差し支えるだろう。どうだろうか、君の話を聞かせてほしい。

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