ダチョウの脚②(終)
王が驚いたのは言うまでもない。戯言世迷い言と切り捨てた予言が、まもなく的中したのだ。偶然はありえない。王はますます、彼の違法商人のことが気になるようになった。
次のひそかな楽しみの中で、王はまた違法商人の店を訪れた。詰問したいところだったが、今王は「王」ではない。あの紙切れも、ただのいたずらかもしれないのだ。ひそやかな趣味をまもるために、王は慎重にふるまった。
商人は、先日の客だ、とまたすぐもみ手をした。新しく仕入れた品がどう。昨日の売れ物がどう。けれど王の関心を引いたのは、また同じものだ。
昨日買い占めたダチョウの脚が、また籠に雑に放り込まれていた。また小さな紙切れが足に括り付けられている。怪しまれぬよう、王は商人に尋ねる。
「主人、これ、このダチョウの脚に括り付けられている紙切れはなんだ?」
商人は、空気が抜けたように縮こまって、静かになった。何も話すことはないというように、店の隅へ。ひどくおびえているようにも見えた。この紙切れには、やんごとない秘密があるのだろうか。
王の関心はますます増した。同時に、身に及ぶ危険も考える。王は悩み、ダチョウの脚を再び買う。昨日よりコイン一枚分安くなっていた。主人は購入の段になると、途端に上機嫌になる。王は訝しみながらも、ダチョウの脚を手に城に帰った。
重要なのは括り付けられている紙切れのほうだ。同様に、予言が書いてある。次は、南の川で大洪水が起きるとのこと。気象士曰く、しばらくは晴れとのこと。翌朝、眠る王のもとに南の川の氾濫の知らせがくる。気象士の手抜かりではない。誰にも予想しえなかったことが、ダチョウの足首に括り付けられた紙切れには書いてあるのだ。
何者のたくらみか、王はこのダチョウの予言が信頼におけるものだと確信する。それから王は、市場に繰り出すたびにダチョウの脚を買って帰るようになった。王の部屋の隠しスペースには干からびたダチョウの脚が山積みになる。違法商人は、はじめこそ手厚く歓迎していたが、どうもてなそうと必ず買うとわかると、だんだん部屋の隅から出てくることもなくなった。
王はこの予言を、施政のために役立てようとしていた。それが王たる自分の正しき振る舞いであると信じていた。
しばらくして、王は病に臥してしまう。その病の正体を、家臣の誰も、王自身でさえも知ることはなかった。ただ、身分をなくし、市場に繰り出す、心の暇ともいえる時間が「王」に毒されてしまった今、王が王であり続けることは難しかったに違いない。
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