旅する村②
翌朝、目を覚ました僕たちは驚く。砂漠の真ん中にあった村が、木々生い茂る森の最中にある。脱水でみな死んで、天国に向かう途中であるならば納得がいく。けれど、生の実感、特に水をよこせと渇く喉が、さんざめいて煩いのだ。
隊の皆が起きてきたので、円を作ってこれからのことを話す。一人が、「我々が眠っている間に時がたち、世界は変わってしまったのだ」と嘆いた。砂漠に木々が生い茂るほどの長い年月が、我々を取り残したままに過ぎてしまったのだと。
それを聞いた僕たちはおいおい泣いた。泣き飽きたころ、またある者が呟いた。
「我々はすでに救助され、おそらく、周辺の部落の民だろう、彼らの村に招待されたのだ」
森の民が僕たちを救い、彼らの故郷たる森に招待してくれたのだと言う。それを聞いた僕たちは、飲めや歌えやと騒いだ。昨日までの足の疲れが嘘のようだった。家々から酒をかき集めて、しかし仕事中だから口にはしなかった。
騒ぎ飽きたころ、僕は考えていた。この村はどうにもおかしいのだ。昨日食べ散らかした新鮮な食事や水が、知らぬ間に戻っている。僕らの寝ている間に、そう、夜の住民やらが、自分たちの住処を荒らす不届き者を許し、食事の用意をするだろうか。皆も同じ考えのようだ。新しい食事は罠のようで、昨日食べてしまったものへの不信感が、隊の輪に仄暗い影を落とす。
「早くここを離れましょう。なにか危険な匂いがします」
「離れてどこへ?」
そして沈黙。見も知らぬような森の奥地にいて、役所勤めの我々にできることがなにかあるだろうか。砂漠にいた時点でもう手遅れだったのだ。少しでも場を離れることは、死をももたらしうる。僕たちはもうこの村の意志に逆らえない。むしろ利用することを考えよう。ここにいる限り、衣食住の保証があるのなら。何より、もう自然の中を無目的に盲目的に進む活力が、七人にはなかった。みな言い訳を順番に並べて、いかにこの村を離れないほうがいいかを力説した。
総意となった。僕たちはこの村にとどまるだろう。しばらくは。別の家に移って、食事をいただいた。村の住民を怒らせぬよう、礼儀は忘れない。玄関に上がるときは皆で靴を並べ、挨拶して踏み入った。二軒目。二日目。変わるものは何もない。夕暮れて、僕らはトランプをする。好きな人の話をする。嫌いな上司の話をする。空気が重くなったので、またトランプをする。
砂漠に奪い取られた生気は、少しずつ僕らの体に戻りつつある。
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