旅する村①
砂漠に来ている。長くても三日ほどの滞在予定。しかしもはや、いつ帰れるのか。一度進路を見失ってしまえば、右も後ろも前も左もみな同じ。四つ子の景色を見分けることは、七人いる隊の誰にも不可能だ。皆の顔には疲れやら後悔やらが並んでいる。そうみると、僕らも七つ子になったように見える。
この砂漠には、現地住民からの依頼で来た。付近に隕石が落ちたという報告があったのだ。税金で食わしてもらっている身。住民の要望に応えぬわけにはいかない。本来、隕石のことは隕石管理課あたりが担当するはずだが、この国の役所にはそんな部署はない。だから僕ら、道路整備課が駆り出されている。
「やっぱり無茶だったんですよ」
隊の誰かが弱音を吐く。それは総意だったので、誰であろうと構いはしない。素人が浅い知識で砂漠に足を踏み入れている。それがどんなに命とりかは、電卓でたたかなくても答えが出る。
「引き返しますか?」
「引き返す方向がわかるのか?」
そして沈黙。こんなやり取りを、もう十度は繰り返している。この五分間は永遠だ。歩む足を止めることはない。止めている認識はない。ただ、あまりに変わらぬ世界に、止まっていてもわかりはしないだろうとも思う。
なけなしの水を口にした。水を口にする機会が、残りの人生であと何度あるだろう。舌がその味を名残るように手放した。一瞬のぬるさも、今や昨晩の夢のようだ。
そうして僕らが歩いていることを確かめられたのは、それから数刻のち。空が地面と同じ色に近づくころ。水平線付近に明かりがともるのを見た。人間の焔。点々と続いていて、心強さが増していく。
気づけば、「村」に着いていた。人の姿はない。でも活気がある。感覚的に栄えている。役所のある街ほどではない。それでも、豊かさのある村だとわかる。
「誰もいないみたいですね……」
隊の一人が水のたっぷり詰まったペットボトルを手に現れた。聞くと、様子を見にいった民家から拝借してきたらしい。
「こちとら命の危機ですよ。あとから事情を話しましょう」
総意だった。僕らは家一つにあたりをつけ、厄介になる。夜が訪れる。星座のよく見える夜。布団を汚すまいと、床に布をひいて寝っ転がる。食事もいくらかいただく。金銭的な代償は、必ず払うと皆誓った。
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