携帯の歩数

 安物のスマホだったから、歩数計の表示がおかしくても、何かバグや計測ミスのせいだと思い、気にすることはない。買ったはじめは健康のため、好奇心のために確認した。思いのほか歩いているように思えた。ただ全く歩いていない日であっても歩数カウントが増えていて、この表示、計測があてにならないものだと悟る。

 それから、まったく気にすることはなくなってしまう。再び歩数計を見ることになったのは、二週間ほどのち。最近歩いていない旨のリマインド通知がきたためだ。歩数は相変わらず分不相応に伸びていて、このスマホが何を基準に「歩いている」としているのかが気になる。携帯して、散歩に出て、こまめに歩数の確認をしてみる。すると、確かに僕が歩いた分は、正常にカウントされているようである。

 一週間ほどさらに検証して、どうやら歩数計の歩数カウントは、僕が寝ている夜の間に大きく伸びていることがわかった。そうなると怖くもなる。見知らぬ誰かがスマホをもって、夜に行進しているか?

 不安で眠れぬということはない。今日も今日とてぐっすりだ。ただ、歩数計への未練が足先にひっかかっている。

 家電量販店でスマートカメラを買って、本棚の隙間に設置した。夜が明けると、僕はいそいそと携帯を手にする。夜の間の映像は、この携帯に送られてくる。

 見ると、そこには闊歩する携帯自身の姿があった。撮られていることにも気づかない。それが自身に送られていることにも気づかない。靴下の左右を間違えたような間抜けな姿が、明に映し出される。枯れ尾花よりは面白い。彼は深夜二時ほどに動き出す。充電ケーブルを抜き差ししたり、ホームを点灯したりしている。部屋中をうろつきまわる。深夜四時に疲れたように、また元ある位置に戻って、沈黙する。

 このような機能があったろうか。携帯を買ったときに説明を受けた記憶はない。説明書は押し入れの中身を引っ張り出しても見つからない。僕はパソコンからこの携帯について調べる。

 どうやら、設定→システムからこの機能をオフにできるらしい。みると、夜間の自動歩行という項目があった。バッテリーの消費にもつながるので、常態はオフが推奨されているようだ。何かのはずみにオンになってしまったのか。歩数計のほうも、人間様の歩行カウントと携帯自体の歩行カウントを分けて表示する機能があるらしい。

 三週間ばかりの戦いだったがすっきりした。間抜けな姿が面白かったので、次は彼の夜間歩行の調査をしてみようと思う。

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