第7話 スメル、フレーバー
短い着信音。一度置いたスマートフォンを取る。
『頼む!カヤノの鍵持って来て!』
サシドリさんからのメッセージは短かった。
先日のゲリラ豪雨で部屋が水浸しになって以来、カヤノさんの部屋の合鍵は私が預かっている。以前はサシドリさんの管理だったが、相互安全保障条約違反だかなんだか……を理由に私へと移された。
入居者の自室の合鍵を別の入居者へ渡す。なんとも奇妙な伝統だ。少なくとも防犯には役立っていない。
机の引き出しからカヤノさんの合鍵をとって廊下へ出る。
カヤノさんの部屋の前へ向かう途中、嗅ぎなれない匂いをかすかに感じた。
気のせいかもしれないくらい、かすかな感覚。
いや、私はこれを知っている。嗅いだ覚えがある。
食堂の前で、それははっきりとした。
ああ、もうわかる。これはタバコの匂いだ。カヤノさんもサシドリさんも、ウリヤくんだってタバコは吸わない。
タバコの銘柄、今でも買いに行ける。
私は何の音もしない食堂の扉を開けた。
案の定、その人は食卓についていた。
その人の対面に座ったサシドリさんは人質にとられたように固まっている。
個別に分けられたお茶菓子がかなり減っているので、まだ余裕そうだが。
「よぉ、久しぶりだな。ナカマチ」
「お久しぶりです。カトウさん」
我が家のOGであるカトウさんは、相変わらず派手なスカジャンが似合い、目つきが悪くて、そして――
「まだ金髪なんですか」
「えっ」
私に弱かった。
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