第2話 虚脱する人、そうでない人


 そこは、夕方とはいえ真っ暗な私の部屋。もちろん、カーテンなど閉めていない。

 停電した室内に響くひどい雨音。ゲリラ豪雨というやつだ。轟くは落雷の予告。

 ヘッドフォン部分を遮音性の高い製品に替えていたのが仇となった。以前の製品なら雨音で気づけただろう。

 パソコンの電源は完全に落ちている。落雷でダメージを受けたのか、単に停電の影響かは不明だ。

 行動の前にため息を一度。私は椅子から立ち上がり、部屋中の電化製品の電源プラグを抜く作業に入った。

 我が家の屋根と窓ガラスは相変わらず激しい雨に叩かれている。

 雷雲もまだ近い。更なる落雷による被害を避けるには、家中の点検が必要だ。

 ドアを開けて廊下に出る。暗い……。脚ポケットに入れたままだったスマートフォンを明かりにする。

 私の部屋がある一階の廊下は問題ない。向かいの空き部屋も問題なし。トイレもよし。先に二階の廊下を見ておくか……。

 雨音に混じって、階段をゆっくりと降りる足音がした。スマートフォンのフラッシュライトで階段とその人物の足元を照らす。

「ああ、悪いね、ナカマチちゃん」

 二階から降りてきたのはカヤノさんだった。肩までかかった髪が濡れてべったりと顔に張り付いている。

「ダメージでかそうですね」

「そうだねー。部屋の窓も開けっ放しで、ダッシュで帰ってきたよ」

 私は濡れたカヤノさんを見て、重大なことを思い出した。

「風呂、沸いてないですね」

「だろうねー」

 カヤノさんは完全に諦めた様子で私の横を通り過ぎた。

 私が階段から二階を見上げていると、「二階は大丈夫だわ」とカヤノさんは言った。

 では、もう一人の住人の様子を見るか。窓を開けたまま寝ているということも有りうる。

「私はちょっと、サシドリさんの様子を見て――」

「そうだ、サシドリ!」

 足も濡れているのか、ぺたぺたとした足音を鳴らしながら、カヤノさんはサシドリさんの部屋へダッシュで向かった。

 数秒も経たずに、部屋のドアを連打する音と、カヤノさんの怒号が雨音をおしのけて廊下に響く。

「非国民に告ぐ! シェアハウスの維持義務に違反する模範じゃない市民はただちに出てこいや! 停電中でもこの部屋の窓から明かりがピカピカ漏れとったんじゃい! こいつ、この非常時に鍵かけて寝て……開くわこれ!」

 こんな剣幕だが、カヤノさんは可憐な乙女である。それはサシドリさんも同じだ。まさか殴り合いの喧嘩にはならないだろう。だが、一応様子をみるべきか……。

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