第27話

 次の日、アエネが目を覚ますとレオパードの姿は部屋の中に無かった。何処に行ったのだろうかと考えていると、部屋の鍵が開けられる音がした。そして扉が開く。咄嗟に身構えるが、その相手がレオパードであったので安堵の息を吐く。

 レオパードはその手に紙袋を持っていて、そこから香ばしい香りが漂ってきた。

「お嬢、おはようさん。パン買うて来たから食べ、味は落ちるやろうけど我慢しいや」

 そう言って自分の分のパンと水の入った瓶を取ると、残りをアエネに渡した。アエネは中から焼き立てらしきパンを取り出すと一口齧った。

「……うーん、何かが足りない味ね」

「そう言うなや、一応焼き立てやねんから」

「文句は言ってないわよ、ただちょっとって思っただけ」

 アエネは小さな一口であむあむとパンを齧ると、水を飲み、味わうより先に胃に収める事にした様だった。レオパードもパンを齧り、早々に食べ終えると自分のとアエネのトランクを手に取った。

「忘れもん無いかー」

「うん、大丈夫」

「なら出るでー」

 そうして廊下を進み階段を下りると受付へと向かい鍵を返せば、宿から外に出た。

 宿を出ると昨日の馬車へと向かう。昨日一緒に馬車に乗っていた者達がやって来るのを待つ。そうしていると四十代女性と老婆が、二十代女性が、そして見送りに来たのか妊婦の女性がやって来た。

「見送りなんてええのに」

「いいえ、お世話になったもの、これくらいはさせて」

「ありがとうお姉さん、有難く受け取っておくわ」

 そうしてレオパード以外が馬車に乗り込むと、御者に「次はデンネまで頼む」と言って馬車の中へと入った。

 動き出した砂利道を行く馬車に揺られながら、今日も女性陣はお喋りに事欠かない様で、話は色々とすっ飛んだり戻ったりしながらもレオパードは話に付いていけず、馬車の窓から流れる景色を眺めるのだった。

 途中昼休憩の為に名も知らぬ町に立ち寄り、レオパードは自分とアエネ用の昼食を買ってくるとそれを馬車の中で食べた。他の女性陣も同じように馬車の中で食べる。

 それが終わると、馬車はまた走り出した。

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