第25話
スパインスも粒子で杭の様な物を複数作り出すとそれをレオパードに向けて発射した。それを槍を回転させて弾くレオパード。
今までずっとアハルマンドの師であるスパインスに扱かれて鍛えられてきただけあって、そう簡単にやられはしない。だが、師であるスパインスに一度として勝った事が無い事も確かだ。
レオパードは槍を放り投げて助走をつけて走ると思い切り腹にドロップキックをお見舞いした。それは命中し、スパインスはその場に倒れる。そのまま槍を形成するとスパインスの胸目掛けて突きを放つレオパード。けれどそれは矛で防がれてしまい、決定打にはならない。そうしてスパインスは起き上がると、突き攻撃を何度も仕掛けてくる。それを防ぐ為に防戦に徹するしかないレオパード。
「この程度だったかな?僕の弟子は?」
「ふざけた事ぬかすなや!」
レオパードは相手の槍を掴むと、ぐんっと引き寄せてスパインスの頭に思い切り頭突きをする。それにぐらりとするスパインス。その隙に乗じてレオパードはスパインスの頭を狙って槍を横凪振るう。けれどそれはカイネス粒子の壁に阻まれ届く事は無かった。それに舌打ちしながら反対側からも頭を狙って槍を横凪ぎに振るうが、同じ様に粒子の壁で防がれてしまう。レオパードが壊せない粒子の壁となると、かなりの練度があるという証明でもあった。
ぐんっとレオパードは屈むと、地面に手を着き、スパインスの顎を狙って蹴りを繰り出した。それは命中し、スパインスは痛みとぐらりとする頭からその場に蹲った。その喉元に槍を突き付ければ勝負は合ったかに見えた。けれどスパインスはレオパードの槍を掴むとバキリと音を立てて割った。こんな事が出来るのはアハルマンドでも練度の高いごく少数だけだろう。それにレオパードは槍を消すと、飛びすさり新しく形成しなおした。
どうやらアハルマンドとしての練度が高いのがスパインスで、体術に優れているのがレオパードの様だった。
「そういえば、そのコートまだ大切に取ってあるんだ。てっきりもう捨てたのかと思ってたよ」
「ええやろうが、俺がどうしようが」
「まぁ、そうだけれど」
レオパードはスパインスに向かって行くと、槍を上段から振るった。それは簡単に避けられてしまい、スパインスから横凪ぎの攻撃を食らう。
「さて、中段、次は下段」
その中段と下段への横凪ぎの攻撃はレオパードが屈む事で避けられた、けれど、
「もう一回、更に下段」
それにレオパードは地面にへばりつくように体を曲げて避けると、次は高くジャンプして距離を取った。
「相変わらず、すばしっこいね」
「鍛えとるからなぁ!」
レオパードはスパインスへ向かって行くと、槍を地面に刺してそれを軸にぐるりと体を回転させて上段蹴りをかます。それを槍で防ぐスパインスだが、ぐるりと回ったレオパードが中段の蹴りをしてくるとは思えなかったのか、見事に横にすっ飛ばされる。カイネス粒子でクッションを作っていて無事な様だが、普通の者ならば手酷い怪我の筈だ。恐らく蹴りを受ける直前にカイネス粒子を使って胴に鎧の様なものを作り出したのだろう。レオパードの勢いの乗った蹴りに耐えられるのはそれくらいしか考えられない。
「なんや、弱いやないかい」
「言ってくれるね……一度も勝てた事が無い癖に」
「……今倒したるわ」
レオパードはそう言うと瓦礫の山から出てくるスパインスに向かって行った。足払いの様な下段の横凪ぎを振るうと、スパインスはそれを槍で防いだ。その槍の上を滑らせてレオパードの槍がスパンスの手に迫ると、スパインスは咄嗟に槍を粒子に戻し消したそしてレオパードの腹に拳を打ち込みながら前へ向かってレオパードの槍の攻撃を避ける。
「油断大敵だよ」
そう言ってレオパードから距離を取ると槍を形成するスパインス。レオパードは先程の一撃が効いたのか槍を杖替わりにぜぇぜぇと息を吐く。多少落ち着いたところでアエネの元へ戻ると、槍を構える。
レオパードはぐんっと屈むと足元付近に縦に粒子の壁を作ると思い切り蹴り低い位置から弾丸の如くスパインスに向かって行く。それを避ける為二三歩後ずさりをするスパインス。距離が開いた事もありスパインスは柄のギリギリ後ろを持つと、ぐるりと回り遠心力を使ってレオパードへ重い一撃を加える。それを柄で受けるが重い一撃にレオパードが先程の一撃の事も体がふらつく。
その隙をついて突きを繰り出してくるスパインスに「やられる」と思った瞬間だった。
アエネがレオの前に庇う様に立ち、スパインスの突きはアエネの胸の前でピタリと止まった。
「何やっとんねんお嬢!自分の立場分かっとんのか!!」
「だって!こうでもしないと止まらないでしょ!」
レオパードはアエネの腕を掴むと自分の背中へと庇う様に追いやった。
「おや、今のは惜しかったかもしれないね」
「そう簡単にお嬢を渡す訳無いやろうが」
そうレオパードがスパインスを睨んでいると、また大きな爆発が起こった。
「ああ、もう時間切れか……他の護衛相手なら連れて行けたんだろうけど、レオ相手には手こずるからね。これ以上は諦めるよ」
そう言うとスパインスは槍に飛び乗って空を飛んで王城の方へと行ってしまった。
「お前!まだ言い足りん事いっぱいあるんや!待たんかい!!」
「ちょ、レオ……」
自分の背後に居るアエネと去って行くスパインスを見て、呆然としながら逡巡した後、アエネの手を取り走り出した。
「レオ、痛い!」
「ああ、スマン」
「そ、それより良いの?あの人ずっと探してた写真の人なんでしょ」
「そーや」
「追いかけなくていいの?」
「今の俺はお嬢のお父様、伯爵様に雇われた傭兵や、傭兵は仕事放棄したりなんかせえへんからな」
「そ、そうなの……なんだか、安心した……ありがと」
「礼を言われる筋合いちゃうで」
そう言い合いながら北行きの馬車乗り場に到着すると、アエネとレオパードは大きなトランクを持ってゼエゼエと荒く息を吐く。
「今から北行ってくれるか!」
一台だけ残っていた馬車乗り場の御者にそう言うと、
「今帰って来たばかりで……ちょっと困るんですけど」
と言う御者に懐から『アエネの買い物代』として預かった金が満杯に入っている財布を渡し、中身を確認した御者が一転して、
「喜んで、さぁ乗ってください」
「お嬢、乗りぃ」
「あ、うん、ありがと」
そう言ってアエネは馬車へと乗り込む。
「ゼクネーア領ルイデまでは急いで何日かかる?」
「急いでも三日はかかります」
「そうかー途中の街、まずはエレントで休憩するか。馬かて休憩取った方がええやろうしな」
一人頷くと、馬車の中に乗り込んでいるアエネに向かって、
「お嬢、他に何人か乗せてもええか?」
「レオ以外の誰か?」
「勿論女子供だけや、北に脱出したくてももう馬車はこれで最後や、なるべく多く脱出させたい」
「良いけど……女の人だけよ」
「わかった、女だけやな」
それを確認し終えると、レオパードは北行きの馬車乗り場で行き場無く立ち竦んでいる者達に向かって、
「北行きの馬車、乗る奴おるか!四人!女だけやぞ!」
と言われた者達はレオパード達の乗る馬車に群がった。
「私を乗せて!北の街に娘がいるの!」
「俺の嫁さんを乗せてくれ!妊娠してるんだ!」
「私も駄目かねぇ……」
「私も!私も!お願いだから!!」
そう四十代くらいの女性、お腹の大きな妊婦、荷物を背負った老婆、二十代くらいの女性がそう言ってきた。レオパードは数をかぞえ、六人乗りの馬車の人数が埋まった。
「四人共乗りぃ、お嬢、端に詰めて貰えるか?」
「分かったわ」
端に寄り大きなトランクを足元に大切そうに置くと、アエネの隣にレオパードが座った。そして他の四人の女性たちが乗り込んできた。レオパードが扉を開けて御者に向かって「出てくれ!」と言うと、馬車は発車した。
馬車は至る所から煙を上げる王都グアニラから段々と遠ざかっていった。
王都から離れるにつれ石畳の道から砂利道へと変わり、馬車は揺れる。
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