第24話

「ホテルや、荷物持ってさっさと北に逃げるで!」

 空から王城の様子を見ると、武装した騎士団と自称革命軍が王城の前でぶつかり合っていた。どうやら自称革命軍は服装もばらばらだが赤い腕章を付けている者達らしき事が見て取れた。

 そう言うとホテルの入り口で高度を下げ、トンと着地するとアエネを地面に下ろす。

 空を飛んで来た事もあり、王城へ向かった時の三分の一の時間でホテルまで辿り着くと、受付で鍵を受け取り離れのスイートルームへ駆け足で向かう。鍵を開けて中に入ると、レオパードはまとめてあった荷物を小さなトランクに詰めるとアエネの方へと急ぐ。

「レオー、手伝ってぇー」

「全部持って帰るんは無理や、鞄一個だけにしぃ!」

「えー!折角お父様にお土産買ったのに」

「今は非常事態なんや!分かっとるんか!一番大事なもんがはいっとる鞄だけに入るだけ詰めて後は諦めぇ!」

「そ、そうなのね……えっと、だ、だったらこれ、これに入れるわ」

 沢山あるトランクの中から手に取ったのは、色とりどりでカラフルなトランクの中で唯一地味な色をしている茶色のトランクだった。

「これにはお父様からの手紙やお姉様からのお守りとか色々大切なものが入ってるの、これに詰めるのは良いのね?」

「ええ、出来るだけ早うせいよ」

「分かってるわよ!」

 そうして「あっちにに入ってる奴持って帰る」とか「これも持って帰りたいけど入らない」とか「アレが無い!はどこにやったかしら!」とか言いながらたっぷりニ十分以上かけて用意を終えると、アエネの重いトランクをレオパードが持って二人はホテルを出た。

「お嬢、またちょいと失礼するで!」

 と言ってからレオパードはトランクを抱えたアエネを抱きかかえると、アハルマンドの槍を形成しそれに飛び乗った。そしてカイネス粒子を滑らせて槍に乗り空を飛んで、北へ向かう馬車乗り場へ向かう。

 のだが、途中見えない大きな壁にぶち当たり、二人は落ちていってしまう。レオパードはアエネを抱えたまま落ちていくが、何とか地面ギリギリのところで粒子の足場を作ると地面に降り、レオパードは一度アエネを腕から下ろした。

 落下の衝撃でフラフラとしているアエネをよそに、レオパードは、見えない壁を壊そうとしている住人達を掻き分けて見えない壁を探る。そこで眉を寄せながら、槍を構えて振りかざせばパリンという音と共に見えない壁は粒子に戻りは消え去った。

 それに喜びの声を上げる住人達。壁が消えた事で皆一斉に走り出した。レオパードもアエネの腕を掴んで走り出す。

「さっきの何だったの?」

「アハルマンドが作った障壁や、カイネス粒子を固めたものやから同じ粒子を操れるアハルマンドにしか壊されへん。っつー事は革命軍にはアハルマンドがおるっちゅーこっちゃな」

「よく分かんないけど、とにかく早く北へ帰るって事で良いのね?」

「せや、早せな革命軍の奴らに封鎖されて出れんようになってまう」

 そう言いながら走っている時だった、真上から何かが落ちて来た。

 レオパードはアエネを抱きかかえその落下物から避ける。落下してきたのは人だった。大きな槍、東の大陸の矛を連想させるそれを持った人間が空から落ちてきて槍が地面にめり込み突き刺さっている。その槍は粒子となりサァと消えてしまった。そしてその人物が同じ槍をもう一度形成させる。

 レオパードは驚愕していた。

 何故なら毎日写真で眺めていた探し人の姿が今目の前にあるからだ。

 淡い茶色の髪色と同じ茶の瞳をした優男で、もの憂げな表情をした人物。

 レオパードより頭一つ分大きい身長は、自分と別れてから変わっていな。

「スパインス・コーレル!!」

「レオ、人の名前を呼び捨てにする、ましてや師匠の名前をそんな風に呼ぶ様に育てた覚えはないんだけれどね」

「アンタ今までどこで何しとったんや!国中探し回ったちゅーのに!てかなんやねんその喋り方!ドナンズ弁はどないしたんや気色悪い!」

「僕も色々あったんだよ」

 スパインス・コーレルと呼ばれた優男は柔和な笑みを浮かべつつ、槍を構える。その腕には赤い腕章が付けられていて、革命軍の一人である事が見てとれた。

 レオパードも槍を構えると、

「何が不満やねん、革命軍なんか入ってええ事なんぞあらへんやろ!」

「僕はね、常々考えていたんだよ、この世の中は不平等じゃないか、僕の様にアハルマンドの能力があるものなら一人でも生きていけるけれど、そうでないなら野垂れ死ぬしかないじゃないか。そんなのは良くない、今の王政では不幸の連鎖は止まらない、だから僕は革命を起こすんだ」

「何やねん、結局何が言いたいねん!世の中不平等?当たり前やろが!そんな中でも生きてかなあかんから努力するんやろうが!ふざけた事ぬかすなやアホ師匠!」

「レオは強者だからそんな風に言えるんだよ、そう言えない人達を見て来た僕にとってはこの国の構造はおかしいとしか思えない」

「せやから革命軍か?そんなアホな集団に入る様な奴やとは思えへんかったわ」

「いいだろう?僕の自由意志で決めた事だからね」

「それやったら!それやったらなんで俺置いて行ってん!!ずっとずーっと探しとったんやぞ!!」

「……ごめんね」

 スパインスは柔和な笑みの中に罪悪感を少しにじませ、そう呟いた。

 それに息を詰まらせ、眉を歪めるレオパード。

「……もうええ、しばいたる」

「そうそう、先に言っておくけど僕の狙いはそこに居るコラドリス辺境伯令嬢だからね。人質として連れて行くつもりだから」

「わ……たし?」

 蚊帳の外だったアエネが、その言葉を聞いて身を縮こませる。

「はぁ!?卑怯な真似するやんけ」

「今は手段を選んでいる時ではないからさ」

「で、人攫いか、ホンマ……おかしなったな……師匠」

「……まぁ知ってると思うけど、レオ相手に手加減はしないよ」

 と言った次の瞬間スパインスは槍を思い切り横凪ぎにレオパードに振るった。それを槍の柄で受け止めるとレオパードはスパインスに向かって突きを繰り出す。だがそれも槍の柄で逸らされてしまい、命中には至らない。カイネス粒子で階段を作り上るとそこから落下してスパインスを狙うも避けられてしまう。

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