第23話

 アエネは番兵の後を付いて城の中へと入って行った。

「お待ちしておりました」

 と女官が複数名が王城へ入ってすぐの所で待っていた。

「よ、よろしくお願いします」

 そうアエネが緊張の面持ちで話すと、女官は安心する様な笑顔になると、

「そう緊張なさらず、何時ものご自分でいて下さって構いませんよ?」

「いえ、そういう訳には……」

 緊張がほぐれないアエネに「それは仕方ありませんね」と女官は柔和に微笑むと「こちらへ」と歩き出した。アエネもそれに付いて行く。すると他の女官たちもアエネの後を付いて来る。それに驚きながらも先を行く女官の後を付いて行くアエネ。

 いくつもの階段を上り、下り、自分が王城の何処に居るのか分からなくなってしまった頃、ある場所へとやって来て女官の足は止まった。大きな観音扉の片方の扉を開くと、

「こちらで禊をして頂きます、その後聖衣に着替えて頂きます」

「は、はい、分かりました」

 そうして扉の中へ入って行くと、女官達に服を脱がされ、湯の張られた浅い浴槽らしき所へ身を浸すと、女官たちが体を洗い始める。それに恥ずかしさと緊張がまぜこぜになってされるがままのアエネ。それが終わると香油を体中に塗られ、露出は無いものの大きなポンチョに袖が付き腰の辺りを紐で結んでいるだけの聖衣へと着替えた。正直これだけで疲れてしまったアエネなのだが、

「さぁ、国王陛下がお待ちです」

 と通された部屋には玉座とその数段下がった場所に絨毯の敷かれた場所があった。

「あそこでお待ちください」

 そう言われ、アエネは絨毯の敷かれた場所へ裸足のまま向かって行く。石造りの建物独特のひんやりとした質感が足を伝って分かる。そうして絨毯の敷かれた場所へとやって来ると「目を閉じ、祈りの姿でお待ちください」と言われた。

 アエネは言われた通り祈りの姿を取ると目を閉じ待った。

 それからどれ位経っただろうか、カツンカツンと杖を突く音が聞こえてきた。そうしてその音が近づいて来ると、

「コラドリス伯令嬢アエネ、私は君を祝福する」

 という老人のしわがれた声が聞こえたかと思うと、コンと何か錫杖の様な物が肩に添えられた。右肩から左肩、そして頭へと移動すると、カツンカツンという音が遠くなっていく。一瞬目を開けそうになったが、堪えて目を閉じたままじっと待った。

 そうしていると、

「もう終わりです、お疲れさまでした」

 先程の女官がやって来て手を引いて先程の部屋へと戻った。

「こ、これで、終わり……ですか?」

「ええ、儀式は滞りなく終わりました、お疲れ様でごさいます」

「えーと、着替えても大丈夫ですか?」

「どうぞ、お召替えください。女官たちも待っておりますので」

 と言われ、また洗われるのかと諦めながら聖衣を脱がされるアエネだった。

 それから女官たちに体を洗われ、着て来た衣服を着せられ、慣れない事だらけのアエネは緊張も相まって疲れてしまった。

「それでは、ありがとうございました」

 アエネがそう言うと、先程の女官が「出入り口までご案内致します」と言ってきたので、アエネはその女官の後を付いて行くのだった。そうして最初に案内された王城の入り口へと戻って来ると、番兵が待っており「ご苦労様でした、外までご案内します」と言ってくるので、お言葉に甘えて案内して貰う事にした。

 外に出ると太陽の光が眩しく感じられた。よく見れば太陽は真上にきていて、自分が長い時間王城の中に居たのだと痛感した。番兵の案内で王城の敷地の外までやって来ると、アエネはレオパードを探した。

「お嬢ー!」

「レオー!」

 王城から大きな通りを挟んだ場所でウェスラーを立ったまま食べているレオパードの姿を見つけた。アエネは通りを進み、レオパードの所へやって来ると。

「ちょっとレオ!立ち食いなんてはしたないでしょ!」

「お嬢も腹減っとるやろ?いるか?」

「食べる……けど、ちゃんと座れるところがいい」

「注文の多いやっちゃなー」

「何時もの事でしょ」

 そう言い合いながら座れる所を探す二人。

「それで、儀式はどないやった?」

「もう緊張して疲れたわ、ゆっくり休みたーい」

 レオパードとアエネが歩いていると広い公園に出た。そこのベンチが開いているのを見て二人は軽く駆けてやれやれと言った様子で座った。アエネに持っていたウェスラーの包みを渡すと、ぱくりと噛り付いた。

「ん、やっぱり美味しいわね、ちょっとはしたないけど。ジュースは何?」

「変な味や言われたから水にした」

「なら安心ね」

 そうしてゆっくりとウェスラーを食べるアエネを見ながら、レオパードは買ってきた水を飲む。ウェスラーを食べ終えたアエネは水を飲みつつ、長い緊張から解放された所為か少々ぼーっとしている。

 そんな風に、二人ベンチに座ってのんびりとしている時だった。

 突然爆発が起きた。

 ドォン!!と耳をつんざく様な音と共に煙が上がる。そしてそれは一度だけでは無かった。街中至る所から爆発音が聞こえ黒い煙がモクモクと立ち上る。

「ちょ、何よこれ!?」

 そして王城前で「うおぉぉぉ!!!」という何十人もの雄叫びが聞こえ「我ら革命軍が王都を頂く!!」との叫び声の後「わああぁぁぁ!!!」という声と共に大勢の足音が地響きの様に聞こえてきた。

 咄嗟にアエネを庇う体勢になっていたレオパードは何かを思い出したかのようにアエネを抱き抱えるとカイネス粒子でアハルマンドの槍を形成しそれに飛び乗り粒子を滑らせる要領で宙を進む。スピードを出し、まるで群青色の風の様になりながら空を進む。

「ちょ!?レオ!何が起こってるのよ!?」

「恐らくテロや!革命軍いうテロ集団が王都で騒ぎを起こしたんや!」

「テロ!?ていうかどこに向かってるのよ!」

 思ったよりもがっしりとしたレオパードの手に少々ドギマギしつつアエネはそう答える。

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