第21話

 その公園に入ると開いていたベンチに腰を下ろす二人。

「よりによって隣同士?」

「お嬢、他の人が使うかもしれんやろ、ここだけは我慢してくれ」

「まぁ、私は心が広い方だから我慢してあげるわ」

「助かるわーお嬢」

 そうして出来立てのウェスラーをまずアエネの分を取り出し、次にアエネ用のリーナジュースを取り出すと両方をアエネに渡す。そして残りのウェスラーと飲み物はレオパード用らしく量が多かった。

「ケシナジュースは微妙やいうてたからリーナジュースにしてみた、多分味は落ちるやろうけど」

「まぁ、飲んでみなきゃ分からないわよね?」

 と言ってアエネはリーナジュースを一口飲むと、

「あーん、変な味!」

「やっぱりあかんかったかー」

「やっぱりって思うなら違うのにしなさいよね!」

「なら俺の水と交換するか?俺はまだ口付けてないから」

「そ、れは……んー変な味でも我慢する」

 逡巡した後の答えはNOだった。レオパードは、なら仕方がないとばかりに自分用のウェスラーの包み紙を開くとがぶりと噛り付いた。

 アエネも包み紙を開くと小さな一口を齧った。そしてリーナジュースを飲んで、

「あーん、変な味」

 というのだった。レオパードはあっという間に一つ目を食べ終えると、二つ目を取り出して噛り付いた。

「アンタ良く入るわね」

「育ち盛りやねん」

「あっそう」

 そういってアエネは小さな一口をまた齧る、

「確かに美味しいのは分かるけど、手掴みははしたないわ」

「そう思とうんは上流階級の人だけやろなー」

「私がそうだって言いたい訳?」

「だってそうやろ?北のお屋敷でのびのび育ったお嬢様やん」

「そうだけど、私は私で大変なんだからね」

「せやなー庶民には庶民の、貴族には貴族の大変さがあるもんやからな」

「分かってれば良いのよ」

「さよかー」

 レオパードはウェスラーを食べ終えると揚げた芋を頬張り始めた。

「それ、美味しい?」

「旨いで?食うか?」

「ちょっとだけ……」

「遠慮せんとぎょうさん食べぇー」

「ん!不思議な味ね、癖になりそう」

 そう言いながらアエネはリーナジュースを飲み、眉を寄せて耐える様な顔をした後、持っているウェスラーをゆっくりと食べるのだった。レオパードは芋を摘まみつつ水を飲むと、のんびりと食べているアエネに合わせて、ゆっくりと芋を頬張るのだった。

 そうしてアエネがウェスラーを食べ終え、リーナジュースも飲み終えると、包み紙を入っていた紙袋に全て入れて公園のゴミ箱へ捨てた。

「さて、腹ごしらえもしたことやし、買い物の続きか?」

「勿論、決まってるじゃない」

 帽子を被ったままのレオパードは『これ以上荷物が増えるのか』と思いつつも付いて行くしかない自分に大きくため息を吐く。

 そうして大通りへと戻るとアエネの買い物は再開した。取り合えず目に入った店に入って行き、必ず一品は買って行く。勿論支払い係はレオパードで、その上荷物持ちもレオパードなのだ。

 げんなりとしながらアエネの後を付いてくレオパード。アエネは早速気になる店を見つけたのか店の中へ入って行った。洋服屋で、レオパードは外で暫く待つ。男の自分が入ったからといって分かる筈がないからだ。そうしていると、店の中から名前が呼ばれる。それでようやく店の中に入るのだ。

 やる事は料金の支払いと新しい荷物の荷物持ち。

 そんな事を何度も何度も繰り返していく内に夕方になった。

 空は橙と紫と黒のコントラストを描きながら刻一刻と変わっていく。

 それを眺めながら、

「お嬢、そろそろ帰ろか」

「えー、もうそんな時間?」

「もう陽が沈む、ホテル帰って夕飯食べようや」

「んー、そうねちょっとお腹空いてきたし、言う事聞いてあげる」

「なんやねん、そのひねくれた言い方」

「別にいいでしょー」

「まぁええけど……」

 そうして二人は荷物を抱えながらホテルへと戻った。ホテルに着く頃には橙は薄く残り、殆どが黒い闇に空が支配されていた。

 受付で鍵を受け取ると、離れのスイートルームへと向かい、扉を開錠すると二人は中に入った。レオパードは持っていたアエネの買い物袋をソファテーブルに置くと、被ったままでいたキャスケット帽を漸く取った。そしてレオパードは自室に戻ると小さなトランクに大事そうにその帽子を入れるのだった。

「さて、そろそろ夕飯やな」

「レオったらいい加減テーブルマナーきちんとしなさいよ」

「俺はこれでもがんばっとるんやで」

「はいはい、分かったから、もっと勉強してよね」

 そう言っていると、ホテルスタッフがやって来て「夕食の用意をしても構わないか」と聞いていた。それに頷いて答えると、ホテルスタッフが夕食の用意をしていく。

 ダイニングの部屋へ行くと豪勢な料理が並んでいて、

「ひゃー、今日も豪華やなー」

「え?普通でしょ?」

「これやから貴族のお嬢様はー」

「何が言いたいのよ!」

「別にーなんでもあらへん」

 そう言い合いながら二人は席に着くと、食事を始めた。

 苦心しながらテーブルマナーとやらを守ろうとしているレオパードの所作に少々呆れながら、アエネは完璧なマナーで食事を取っていく。今日のジュースは昼に飲んだリーナジュースで、一口飲むと「これよ、私が知ってるジュースの味は」と呟きながら嬉しそうに飲むのだった。

 そうして食事を終えると、

「俺は部屋におるから何かあったら呼べよー」

 とだけ言い残してレオパードは自室へと戻った。

 ソファテーブルに置いてある古ぼけた本を手に取り、ソファに座るとパラパラと捲って読み始めた。

 それからしばらくして寝るのに良い時間になると、本をパタリと閉じてその本をトランクに入れると、部屋から一番近いバスルームでシャワーを浴び、着替えて部屋に戻ると、フカフカのベッドに潜り込んで、ゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。

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