第20話
次の日、レオバードは朝日が昇ると共に目を覚ました。少し寝たりないなと思いながらも起き上がると、着替えコートを羽織ると部屋を出た。
アエネは白いロングスカートにフリルの付いた黄色のブラウス、上着に薄茶のコートを持っていた。ブラウスと同じ黄色の小さな鞄を肩から掛けていった。
「今日も買い物か?」
「そうよ!昨日行けなかった分いっぱい見て回るわよ!」
「へいへい、お嬢の荷物持ちさせて貰うわ」
「あら、分かってるじゃない」
「それより朝飯にしようや、話はそれからや」
等と話しているとホテルスタッフがやって来て朝食の用意をしていく。並べられた豪勢な朝食を前に席に座ると、レオパードは焼き立てのパンにバターをたっぷり塗って頬張ると茶を飲む。
「で、どの辺行くんや?」
「一昨日は西側しか見れなかったから、東側に行きたいわね」
「りょーかい」
そう言い合いながら手早く朝食を終えると、出かける用意をする。レオパードは『アエネの買い物代』の財布を複数懐にしまうと、準備を終えたらしいアエネと共に部屋を出た。扉を施錠し受付で鍵を預けると、街へと繰り出した。
それから街に出て二時間後、既にレオパードの両手にはアエネの買い物袋が大量にあった。今入っている店で「きゃー可愛い、素敵ー」というアエネの声が聞こえてくる。もうそろそろかと店の前から中へ入って行くと、
「レオ!タイミング良いじゃない、支払いおねがーい」
「へいへい、金遣いの荒いお嬢やで、ホンマに」
「なによー良いじゃない」
「ま、別にええけどな」
等と言いつつアエネの買い物の料金を支払うレオパード。
個人的には自分で払って社会の仕組みを知って貰いたいと思うのだが、それは到底無理そうだとレオパードは悟った。
新しく増えた紙袋を手に持つと、アエネは次の店へと向かう。その後を付いて行くレオパード。次の店はどうやら帽子屋らしい、嬉しそうに中に入っていくアエネを見送り外で待つレオパード。店の中から「素敵ー綺麗ーたまらないわー」という声が聞こえてくる。今日のアエネお嬢様は上機嫌らしいことが嫌でも分かる声だった。暫くその声を聞いていたが、そろそろかな?と思い店に入れば、
「あ、丁度いい時に来たーレオー支払いお願い」
そうニッコリ笑ってくるお嬢様にため息を吐くしかないレオパード。護衛の任務とは買い物の荷物持ちや支払い係なのだろうかと思いながら料金を支払うと、持とうとした紙袋をアエネがスッと持つ。そうして中身を探りながら、
「はい、これあげる」
「………は?」
と言われて頭に被せられた帽子を見ればインディゴブルーのキャスケット帽で、群青色のコートと合わせているのが嫌でも見て取れた。
「お嬢、これ、もろてええんか?」
「一昨日と今日頑張ってるからね、大事にするんだったらあげるわよ」
「ありがとーな、南行った時とか使わせて貰うわ」
「なら、いいのよ」
そうしていると帽子を被ったレオパードの腹がぐぅぅぅ~と鳴った。
「アンタ、恥ずかしいじゃない!そんな音停めなさいよ!」
「自然現象やがな、止めれたら苦労せんわ」
アエネははぁ…とため息を吐くと、
「要するにお腹が減ったって事よね?今日も食べるの?あの……なんだっけ?」
「ウェスラー」
「それ!……食べたいの?」
「お嬢がええって言うてくれるんなら食べたいなー」
「もう、仕方ないわね、今回だけよ」
「よっしゃ!」
帽子をかぶったままのレオパードはそう言うとアエネが持っている紙袋を取り、店を出るとウキウキとしながら大通りの道を行くのだった。
「レオー!ちょっと待ちなさいよね!」
駆けて来るアエネを待つため立ち止まると、ぶつかる様に突進してきたアエネに「うげっ」と声が出るレオパード。
「なによその声!私の抱擁が気に入らなかった訳?」
「そう思うなら突進してくんなや」
「なによその言い方!」
「ああ、もう俺が悪いんでええから機嫌直しーや」
「もう!」
そう言い合いながらウェスラーの店へと向かうレオパード。大通りに面した処にあるそれは、最初通りを見た時に発見したものだった。中に入ると人が満杯状態で、席も空いているところは無さそうだった。それにレオパードは、
「お嬢、持ち帰りにするからちょっとここで待っててくれんか?」
「ええ、分かったわ」
その返事を聞くと受付の行列に並ぶレオパード。それをチラチラと見なが「まだかしら」と呟くアエネ。そうして戻って来たレオパードは大きな紙袋を持って嬉しそうにしている。
「お嬢、この近くに公園があるらしいからそこで食べようや」
「公園で!?なんだかはしたないわ……」
「ピクニックやと思えばええやん」
「まぁ、それなら別に構わないけど……」
「流石お嬢、分かってるなー」
「でしょ!」
と軽くおだてておいて気分を良くさせてから、ウェスラーの入った袋を持ちながら、区画の大通りから一歩入った所にある公園を目指した。その公園は直ぐに見つかった。子供やその親たちがしきりに遊ぶ声が聞こえてきたからだ。
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