第16話

 翌日、朝日が昇ると同時にレオパードは目を覚ますと、もう少し寝足りないと思いつつも大きな欠伸をして起き上がりベッドを下りて服を着替え、コートをを羽織ると部屋を出た。

 アエネも部屋から出てきたところで、緑の膝丈のスカートに青のシャツ、薄い上着は鞄と同じ白。今日も出掛ける気満々なのが見て取れた。

 そうしているとホテルスタッフがやって来て朝食の用意をしていく。それが終わるとレオパードとアエネは席に着いた。レオパードは茶を飲みつつパンにバターをたっぷり塗ってそれを頬張る。アエネは果物に手を伸ばし、王都で今旬のカラナの実の小さな一粒をパクリパクリと口へ運んでいく。

「で、今日は買い物か?」

「そうよ、昨日よりもいっぱい買うつもりだから覚悟してなさい」

「はぁ~めんどいのぉ~」

「レオは荷物持ちだからちゃんと付いて来なさいよ」

「へいへい」

 そう言い合いながら二人は手早く朝食を済ませると、アエネは出掛ける用意を始めた。全身の映る鏡で入念に服装のチェックをしていた。レオパードはそれをあきれながら見つつ、部屋に戻ると伯爵から預かっていた『アエネの買い物代』の入っている財布を複数懐に仕舞うと「レオ―!」とアエネがレオパードを呼ぶ声が聞こえた。部屋を出てアエネの元へ向かうと、すっかり準備が整ったのか気合いの入った表情で待っていた。

「行くわよレオ!」

「しゃーないから行こか」

「なによ、もっとシャキッとしなさいよ」

「これから疲れるんかと思うとやる気出んわ」

 そう言いながら部屋を施錠すると受付に渡し、アエネは父親宛の手紙を係員に渡して、ホテルを出た。

 そうしてグアニラの街を東西南北に碁盤の目の様に区切る大通りへとレオパードとアエネはやって来て、服屋や靴屋、帽子屋にアクセサリーと色々な店を嬉しそうに見て回るアエネと、ぐったりしながら買い物した店の紙袋を両手に沢山抱えて半分死んだ目でレオパードはアエネの後を付いて行く。そして、

「レオ―、支払いして」

「へいへい」

 昨日の社会勉強はどこにいったのか、支払いはレオパード任せだ。

 最初は自分で支払えと言ったのだが「ややこしいから嫌、レオがやって」と言われて仕方がなくレオパードが支払いを担当することなった。

 何を買うか決まった時に呼ばれ支払いだけする。しかも買った荷物はレオパードが持つ事になっていて、増えていく荷物にげんなりするレオパード。

 けれどアエネはまだ買い足りないらしく、次の店へと向かって行った。それをぐったりしながら後を付いて行くレオパード。

 空を見上げれば春の心地よい風と共に、時折雲に隠れつつも真っ青な空に輝く太陽は真上に来ていた。そろそろ昼食時かと思い、レオパードはアエネに、

「お嬢、そろそろ昼飯にしよかー」

「え?もうそんな時間?」

「せやでー、腹減ったから何か食おうや」

「そうねぇ……確かにお腹空いたかも。何か食べ物屋へ入ろうかしら」

「なんか食べようや、腹ペコやねんて」

「わかったから、取り合えず食べたいものがあるなら店の前に連れて行きなさいよ」

「りょーかい」

 そう言うと両手いっぱいに紙袋を下げたレオパードは大通りを行き来して、とある店の前で立ち止まった。ウェスラーと書かれた大きな看板が掲げられたそこに入っていくレオパード。慌ててアエネも中に入ると、人でごった返していた。

「ちょ、レオ……ここで食べるの?」

「せやでーひっさしぶりにジャンクフードが食べたぁーてなー。席空いたわ、あそこ座るで」

「う、うん」

 戸惑い気味のアエネに席に座って待つように言って、両手いっぱいの荷物を席に置くとレオパードは受付の列へと並びに行った。

 そうして暫くすると、トレーの上に紙に包まれたものと飲み物らしいカップを乗せてレオパードが戻って来た。

「……なに?これ?」

「ウェスラー、焼いた鶏肉に野菜と特製ソースを掛けたんをパンで挟んだもんや、旨いで」

「えーと……どう食べるの?フォークとか無いの?」

「これはこうやって包み紙を掴んで、ばくりっ!と手掴みでいくんや」

「え……野蛮」

「ええから食ってみぃ、旨いから」

 そう言われてアエネは恐る恐る包み紙を掴んで開くと、小さな一口を齧った。

「ん!美味しい!」

「やろ?最近高級な料理ばっかしやったから久しぶりに食べとうなってな」

「でも手掴みは感心しないわねぇー」

「これが庶民の感覚や、覚えておいて損はないやろ?」

「まぁ、偶にだったら良いかもしれなけどね」

 と言いながら小さな一口を齧るアエネ。そうしているとレオパードは一つ目をさっさと食べ終え、二つ目に手を伸ばした。

「レオってそんなに食べれるの?」

「一応育ち盛りの男子やねんけどな」

 二つ目を齧りながらそう言うレオパードにアエネは、

「それって今までは我慢してたって事?」

「正直言うと堅っ苦しい食事は性に合わんねんよな、まぁお嬢の手前お行儀よく食べとるけど、物足りんなーとは思う」

 付け合わせの揚げた芋を摘まみながら飲み物を飲む。

「あ、お嬢は何が良いか分からんかったからケシナジュースしといたで、まぁ味は落ちるけどな」

「そうなの?……うわ、なにこれ、変な味」

「安もんやからな、んじゃまーごちそーさん」

「え!?もう食べ終わったの!?」

「お嬢も早う食べよ?他の客が待っとるでー」

「五月蠅いわね、食べるわよ!ちょっと待ってなさい」

「へいへーい」

 そう言ってアエネが食べ終わるまで待つ事となった。アエネはケシナジュースを飲み「変な味」と言いながらウェスラーを小さな口で齧っていく。ようやく食べ終え終えるとと口元を拭いて、

「美味しかった……たまにはこういうのもいいわね」

「せやろ?」

「でも毎日は無理」

「やろうなー、さて行こかー他のお客さん待っとるからな」

「ちょっと、待ちなさいってば」

 レオパードは立ち上がると両手いっぱいの荷物を持つと店から出て行った。

 それから大通りに出ると、またアエネの買い物に付き合う。

 何件目だろうかレオパードが支払いをしている時、背の高い顔立ちの整った男がアエネに話しかけてきた。

「ねぇ、一人?」

「いいえ、二人よ、それがなに?」

「もう一人ってアレ?あんなイケてない男よりオレと一緒に遊ばない?」

「そうねぇ……いいかも!」

 そう言っているところにレオパードがやって来ると、

「レオー私この人とちょっと遊びに行ってくるから、荷物持って帰っててね」

「はぁ!?待てや!そんな事あかんに決まっとるやろ!」

「うわぁ、なんだい?そいつ。いいから行こ?」

「うん、じゃーねーレオ」

 それだけ言うと行ってしまった。

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