第15話
王都でも有数の高級ホテルの前で馬車が停まると、二人は馬車を下りた。アエネはハイサイ丈のブーツを履き、フリルの付いたネイビーのミニスカート、それにフリルのシャツに薄手の薄茶の上着を着ていた。何時も通りアエネが受付で伯爵からの手紙を見せれば、離れのスイートルームへ沢山の荷物と一緒に案内された。
「やーっと着いたわ、買い物するわよ!」
「お嬢、本来の目的忘れてへんやろな」
「分かってるわよ、儀式でしょ?それまでまだ何日かあるから今の内に買い物しまくるわ!」
「お嬢………」
まぁ好きな様にさせておくかと、何時もの通り一番小さい部屋へと向かった。部屋に入ると小さなトランクをソファテーブルに置いて、伯爵から預かった『アエネの買い物代』の入った幾つもの財布を取り出すと、その量に圧倒される。この中からレオパードも好きな物を買っていいと言われているが、到底買う気にはなれなかった。
「レオ―!買い物行くわよ」
「さっそくかいな、もう店閉まるで」」
「今から行っても開いてる店くらいあるでしょ?急いで行くのよ!」
「さよかー、なら付いて行かなあかんな、めんどいけど」
そう言うアエネに従って『アエネの買い物代』の財布の一つをコートの懐に入れて、小さな鞄一つ持ったアエネの後を付いて行くレオパード。部屋を施錠して先を行くアエネを追いかけながら、受け付けに鍵を渡した。
ホテルを出ると、更に傾きオレンジと紫、夜の黒が空に芸術を作り出していた。
そんな中を大通りに出る為に歩くアエネ。その後を付いて行くレオパード。大通りに出ればアエネは少々小走りになると一つの店へと入って行った。レオパードは女性物の服屋だったので入り口で待つ事にした。
「やーん、可愛い!こっちのも可愛い!迷っちゃうー」
という声が入り口に居るレオパードにも聞こえてきた。そうして待っていると、
「レオ―!ちょっと来て!」
そうアエネに呼ばれた。店の中に入ってみれば紙袋に入れられた荷物を受け取りつつ、
「支払いして」
それにレオパードは懐から『アエネの買い物代』の財布を取り出すとそのままアエネに渡した。それに戸惑いながらアエネは、
「なによ、これ」
「金や、自分で支払ってみぃ」
「え!?やり方わかんないわよ」
「社会勉強や思てやってみぃ、教えたるから。でおいくらなん?」
「全部で二十七万ルーレルになります」
と店員はにこやかな笑顔で答えると、財布を開けたアエネはレオパードに、
「これ、何枚出せばいいの?」
「十万ルーレル二枚と五万ルーレル一枚に一万ルーレル二枚や」
「ちょ、え!?もう一回言って」
「せやから十万ルーレル二枚と五万ルーレル一枚に一万ルーレル二枚や」
「………この十万ルーレル三枚でもいい?」
「それでもええで」
「じゃ、これでお願い」
アエネが十万ルーレルを三枚店員に渡せば店員が慣れた手つきで、
「それでは三十万ルーレルお預かりしましたので、三万ルーレルお返しします」
アエネはお釣りを受け取ると手間取りながら財布に入れていく。レオパードはやれやれと言った様子で服の入った大きな紙袋を持つと店を出た。慌てて追いかけてくるアエネと空を見上げれば夕日は完全に沈み、西の空に名残の様にオレンジの輝きが見えた。
「もう晩飯の時間やな、ホテル帰るで」
「えーもう買い物終わりー」
「明日また来ればええやろうが」
「そうね、お腹も空いたし今日は言う事聞いてあげるわ」
「お嬢………」
そう言ってホテルへの道を進むレオパードの後ろを付いて来るアエネ。けれど目新しい物を見つけると足を止めてしまうのでホテルに戻るまでには結構な時間が掛かった。
漸くホテルに戻ると、受け付けで鍵を受け取り離れのスイートルームへと戻った。
夕食の用意を頼むと、レオパードは先程買った服の入った紙袋をアエネに渡す。そうして自分の部屋へ戻ると夕食の用意が整うまで、やれやれとソファに腰掛けた。
「お嬢様の相手はしんどいわー……」
等と呟きつつダラダラとソファに寝転がった。
そうしていると、夕食の用意が出来たのか、ノックの音が聞こえた。扉を開けばホテルスタッフが立っていて「お食事の用意が整いました」と言ってきた。礼代わりにチップを渡すと、コートを着たままダイニングの部屋へと向かった。隣の部屋はアエネの服が散乱していて『またか!?アレでもお嬢かいな』と思わざるを得ないレオパード。
気を取り直してテーブルの上を見てみると、最上級であろう料理が並んでいた。
「今日も豪華やな~」
「そうなの?何時も通りじゃない?」
「これやから貴族のお嬢様は世間を分かってへんのやで」
「なによその言い方」
「なんでもあれへんわ」
そうして二人椅子に腰かけると、食事を始めた。レオパードのテーブルマナーも大分マシになりつつあるなと思いながら、アエネは完璧な作法で食事を進める。前菜からスープ、メインディッシュを食べ終えると、最後のデザートの果物をのんびりと頬張る。
「そうそう、私、えっと四日後に儀式をするの」
「おー、言うとったあれか。具体的に何すんねん」
「それは教えちゃいけない決まりだから、教えなーい」
「ムカつく言い方やなぁ……まぁ、分かったわ、当日頑張りぃー」
そうしてデザートまで食べ終えると、レオパードは席を立ち、
「部屋戻っとるわ、なんかあったら呼べよー」
「わかってるわよ」
その返事を聞くと、レオパードは部屋へと戻った。ソファに座り込み、はぁ~~~と大きなため息を吐いた。そうしてトランクから古びた本を取り出すと読み始めた。そうしていると、寝るのに良い時間帯になりレオパードは部屋から一番近いバスルームでシャワーを浴びると着替えて部屋へ戻り、フカフカのベッドへ潜り込んで、ゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
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