第12話
それから王都出発の準備が整ったのは三日後の事だ。
その間、レオパードは清潔でフカフカのベッドで眠り、豪華な食事を取って、午後には伯爵とゆっくり茶を飲みながら今まで地方であった出来事を話し、夜には伯爵と一緒に食事を取り、お茶の時間の続きの様な話をして過ごした。
そんな三日間を過ごして、やっとアエネの荷物の用意が出来た。屋敷の入り口の広場に止めてある馬車に荷物を積み込んでいく。
アエネの荷物は最近流行の色とりどりの大きなトランクをなんと四つも馬車に積み込み、アエネは何時ものサイドテールにピンクのロングスカートに白のシャツ、その上から防寒用の白いコートを着て、足には踵の高いブーツを履いていた。
「……遊びに行く気満々やな」
「どうせ王都に付くまで何日かかかるんでしょ?その間もお洒落はしたいの」
「まぁ、ええけど……荷物多過ぎちゃうか?」
「これでも減らした方よ」
「へいへい、さよかー」
入れる隙間が無くなってしまったのでレオパードの小さなトランクは馬車内に持ち込む事になった。
「グレイル君、くれぐれも宜しく頼むよ」
「はい、お任せください」
「アエネ、余り我が儘を言うんじゃないよ、それと儀式の際は国王様達に失礼の無い様執り行う事、いいね?遊びに行くんじゃないんだよ」
「お父様、私は大丈夫です、もうお父様の指示が無くても動けます、子ども扱いしないでください」
「はぁー心配で仕方が無いよ」
年配の使用人が伯爵に「旦那様、そろそろお時間です」と告げれば、
「手紙はちゃんと書くんだよ、いいね?」
「分かっています」
そう言ってアエネとレオパードは馬車へと乗り込んだ。
そうして王都へ向けて馬車は走り出した。
「漸くやな」
「何がよ」
「なんでもないわ」
二人はそう言い合いながら向かい合う形で席に座ると、流れていく外の景色を眺めていた。
一時間程でルイデの街へ来ると、そこから中央へ向かう街道を馬車は進んでいく。舗装された石畳から砂利道に変わり馬車は揺れる。がたがたと音を立てながら進む馬車の中で、向かい合う二人は無言のまま外の景色を眺めていた。
丁度果樹園が密集している地域に来た頃、
「レオ、暇」
「そうかい」
「だから何か話しなさいよ」
「面倒臭いから嫌や」
「どうしてレオはお父様の言う事は聞く癖に、私の言う事は聞かないのよ」
「お嬢は雇い主やのうて唯の護衛対象やからや、必要最低限の事しかする気起きひんわ」
「アンタの態度ムカつくんだけど!」
「おう、さよかー」
「お父様に言ってもいいのよ!」
「お嬢の事やらかもう言うとるやろ、でも何もないゆう事はお前の言葉は力ない言うこっちゃ」
がたごとと音を立てて進む馬車の中は険悪な雰囲気が漂い始めた。アエネから一方的にだが。一方のレオパードは何食わぬ顔で小さなトランクを開けて古びた表紙の本を取り出すと、パラパラと捲って読み始めた。
「私より本の方がいいの」
「五月蠅いねん、お嬢。少しは黙らんかい」
「暇なのよ、何か無いの?」
「お前あんだけトランク積んでなんも暇つぶし出来るもん持ってないんか」
「後ろのトランクは全部服だもの。ここには何も持って来ては無いわ」
「お嬢、長旅やねんから本でも一冊くらい入れとけや」
「私本嫌いだもの」
「んな事知らんわい」
「じゃあ何すればいいのよ」
「今日宿で書く手紙の内容でも考えとったらええやろうが」
そう言うとレオパードは一度閉じた本をもう一度捲って再び読み始めた。アエネはこれ以上言ったら本気で怒られるだろうと感じたのか、窓から景色を眺めながら通り過ぎていく果樹園の様子見るのだった。
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