第9話
次の日、朝日が昇るとともに目を覚ましたレオパードは、柔らかなベッドの寝心地が心惜しく暫くもぞもぞとベッドに潜り込んでいたが、扉をノックされて仕方ないとばかりに起き上がった、顔を洗い着替えを済ませると、防寒着とコートを着て扉を開いた。
扉の前にはラインドが居て、
「朝食だってさ」
と言われ、三人で若い使用人の後を付いて行って、昨日夕食を取った部屋へとやって来ると昨日同様豪華な食事が運ばれてきた。焼きたてでフワフワと柔らかなパンを頬張っていい香りのする高級なリーゼ茶を飲みつつ、朝食を終わらせると、三人は部屋を出た。
若い使用人の後を付いて行くと、屋根のある廊下を進み別の建物に入り、伯爵の執務室に案内された。若い使用人がノックをし「お三人様をお連れしました」と中の人物へと伝えた。若干緊張しながら内側から扉が開かれると、伯爵と年配の使用人の他にもう一人の姿があった。
昨日廊下ですれ違った金髪の少女だった。
今日はピンク色のセーターを着、膝丈の淡い紺色のスカートをに白の靴下踵の低い黒の革靴を履いていた。
「やあ、昨日はよく眠れたかな?アハルマンドの君、名前はグレイル君といったかね?他の二人にも紹介しておこう、私の末娘のアエネだ」
「お初にお目にかかります、アエネと申します」
そう言いながら淑女の礼をして、挨拶をする。
昨日の印象とは大きく違い、生粋のお嬢様という感じがした。恐らく父親の前であるから畏まっているのだろうとレオパードは勝手にそう思った。
「この娘がアハルマンドより君、ロローグス君が良いと駄々をこねていてね、申し訳ないがグレイル君何か見せて娘を安心させてはくれないか?」
「なにかと言われましても……」
言葉に詰まるレオパードにラインドとセルバが、
「武器を作ればいいんじゃないか?」
「そしてそれで技でも見せれば納得するのでは?」
と言い出したので、仕方なく掌にカイネス粒子の光を集め槍を形成すると、その槍に飛び乗り、空中を暫し漂う。
「うっそ!空飛べんの!?」
「これは驚いた」
そうして槍から飛び降りると、槍を粒子に戻し消せば、少女アエネの方を見る。
目をパチクリとさせながら驚いている様子なのだが、その後睨むような顔をして、父親である伯爵に向かって、
「お父様、凄いのは分かりました!けど私は彼が良いんです!」
そう指さす先はラインドで、やっぱり見た目重視なのかと思わざるを得なかった。
「そうは言ってもな、もう契約は交わしてしまったのだから仕方ないだろう?」
「今からでも変更してください!」
「昨日も言っただろう、もう決まった事だ」
「ですが、お父様!」
「いい加減にしなさい、アエネ」
「………はい」
ようやく受け入れたのか、悔しそうに下を向いて両手をぎゅっと握るアエネ。レオパードは漸く決まったのかと呆れた様にため息を吐いた。そして伯爵を見やる。伯爵はラインドとセルバを見つめながら、
「手間取らせて申し訳ない。それでロローグス君、ディスカス君にはすぐに王立騎士団北方支部へと向かった貰いたい」
「はい、分かりました」
「承りました」
伯爵にそう返事をすると、頷く伯爵。
「グレイル君にはもう暫くこの屋敷に居て貰う事になる、アエネの準備が出来ていないそうだからね」
「だってお父様、王都ですよ!おしゃれしなきゃいけない場所ですもの!服選びに時間が掛かるのは当たり前です!」
「そう言ってないで早くしなさい、期日までに行かなければいけないのだから」
「………はい」
アエネはまたも悔しそうに下を向く。
「話はそれだけだ、二人とも宜しく頼むよ」
「はい、任せてください」
「尽力致します」
「では、下がってくれて構わない」
伯爵がそう言うと、若い使用人が執務室の扉を開き「どうぞ」と言いたげな目で三人を見る。
三人は伯爵の執務室を出て先程来た道を戻っていく。宛がわれた部屋に入ると、ラインドとセルバは荷物や武器をまとめ背負い、若い使用人の案内で騎士団へと向かう。
「じゃーな、レオパード。またどっかで会ったら宜しくな」
「それでは行って来る、お前も任務頑張れよ」
そうレオパードに告げて、二人は若い使用人の後を付いて行ってしまった。
残されたレオパードは若い使用人に案内されて自室へと戻ると、扉を開いて入り鍵を掛け、コートと防寒着を脱いで寝れる内に寝て置いた方が良いと思い、もう一眠りとベッドに潜り込むのだった。
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