第8話

 レオパードはノックの音で目を覚ました。フカフカと柔らかなベッドから身を起こすと、扉の前へと立つ。

「誰やー?」

「俺、俺、ラインドだよ。夕食の用意が出来たらしいから呼びに来た」

「さよかー、すぐ行くわ」

 レオパードは防寒着とコートを着ると、トランクをそのままに鍵を開けて部屋を出て鍵を掛けるとそれをコートのポケットに入れ、廊下で待っていたラインドとセルバの元へと歩く。

「おはよーさん」

「良く寝たか?」

「おう、ばっちりやで」

 そう言うセルバに答えるレオパード、きっと豪華であろう夕食にウキウキとしているラインドと、腕を組んでいるセルバ。三人そろって先程の若い使用人の後を付いて廊下を歩く。大きな階段を下り、先程昼食を取った部屋ではなく別の部屋へ通されると、先程よりは狭い部屋に円卓が一つ置いてありそこに椅子が三つ等間隔で並んでいた。それぞれ席に着くと、料理が運ばれてきた。

「そういえば……テーブルマナーとか……分かる?」

 とラインドが尋ねれば、

「知らんわ、そんなもん」

「詳しくはないな」

 レオパードとセルバは当たり前の様にそう呟くと、三人は完全に開き直った。

 それを知ってか知らずか、料理は順々ではなく一気に運ばれてきた。そうしてやって来た給仕が、

「マナー等お気になさらずお召し上がりくださいませ」

 と言うと給仕係は皆部屋の外へと出て行った。

「………気にしなくていいのか?」

「みたいだな、よっしゃ!いっただきまーす!」

「……………相変わらず旨いなぁ」

 そう言い合いながらマナー等そっちのけで料理を頬張った。レオパードは分厚いステーキを切って口へと運ぶとその肉汁の甘さに舌鼓を打つ。ラインドは鶏の丸焼きをナイフ切り分けながら手掴みで噛みついた。セルバは珍しい南国の果物を手に取っていた。

 そうして一気に食事を終えると、のんびりとリーゼ茶を飲む。

「そういえば、セルバは酒飲まないんだな」

「ああ、これから仕事だからな、仕事が終わったら飲むつもりだ」

「そう言うお前かて飲まへんのか?」

「一応未成年だからな、母親に口酸っぱく言われ続けたから守ってるんだよ、そう言うレオパードこそどうなんだよ、十八歳成人済みだろ?」

「酒を受け付けへん体質やねん、それに見た目から飲ませてくれへんわ」

「それもそうだよなぁー」

「お前一回どつたろか」

「うーわ、レオパード怖い―」

 等と言い合いながら茶を飲んでいると、扉がノックされ「失礼します」と言いながら給仕係達が食べ終わった食器を片付けに来た。その内の一人に

「お茶のおかわりは?」

 と聞かれれは、全員おかわりを頼んで談笑を続ける。

「それでさ、二人は今までどんな仕事してきたのさ?」

「そんなん聞いて何になるんや」

「ちょっとした好奇心だよ、いいだろ少しくらいさ」

「俺の仕事は守秘義務のあるものが多いから、話せないな」

「ええーそんなぁー」

 そう声を上げるラインドにレオパードは、

「それやったら自分の話したらええやん」

「俺は人の話を聞くのが好きなんだよ」

「さよかー、そんなら諦めぇー」

 レオパードはそう言いながら茶を啜る。そして伸びをすると、

「そろそろシャワー浴びて寝よ、そんなら先部屋戻るな」

「俺もそろそろ部屋に戻る」

「俺だけ置いてけぼりにするなよ」

 等と言って三人は部屋へと戻った。先程の若い使用人が部屋へと案内すると申し出て、広い屋敷の中で迷子になるのはご免だと三人は若い使用人に案内を頼んだ。これだけ大きな屋敷になると、どこに何があるのかレオパード達には全くもって分からない。なので案内に感謝しながら屋敷の中を進む。

 大きな階段を上り廊下を歩けば、先程までレオパードがベッドで眠っていた部屋へと戻って来た。

「そうだ、シャワー室ってどこかな?」

 ラインドが尋ねれば、

「ご案内いたしますので、ご用意が出来ましたらお声をおかけください」

「そうなんだ、ありがとう」

 そんなやり取りを見ながら、レオパードはポケットから鍵を取り出すと開錠して部屋の中へと入った。ソファに置いたトランクから着替えを取り出すと、丁度衣服が入る小さな手提げ鞄に着替えを入れて部屋を出た。施錠し、鍵をポケットに入れると若い使用人の元へ向かった。

 ラインド達も用意が整ったらしく、「それじゃ案内お願いします」とラインドが言えば「こちらです」と案内をしてくれる。大きな階段を下り、先程とは反対の廊下を進み、奥まった場所へやって来ると若い使用人が「こちらになります」と扉を開けてくれた。

 中は広く、一人一人壁で区切られ計七名が一緒に使える状態だった。

「へー広いね」

「私はここでお待ち致しますので、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう、帰り道解らなくなると大変だから助かるよ」

 そうラインドと使用人とのやり取りを見ているだけのレオパードとセルバだが、その使用人に軽く頭を下げてからシャワー室へと入って行った。

 久しぶりのシャワーに気持ち良さを感じつつ、手早く済ませると新しい服に着替えた。そうして使用人の待つ廊下へ出ると、驚かれた。尋ねれば「もっと時間が掛かるものだと思っていた」との返事が返ってきた。

 濡れた髪をタオルで拭きながら、若い使用人の後を付いて部屋へと戻る。大きな階段を上り廊下を進めば宛がわれた部屋へと戻って来た。

「それじゃ俺たちは寝るから、今日はありがとう」

 ラインドがそう言うと、若い使用人の男性は「仕事ですので」と一礼してその場を後にした。

「どうせ明日も早いんやろうからさっさと寝てまお、おやすみー」

「ああ、おやすみ」

「また明日な」

 そう告げると、各々部屋へと入って行き、レオパードは着替た服を入れた小さな手提げ鞄をソファに放り投げると、そのままベッドに潜り込んだ。そうして戦いの疲れを癒す様にレオパードは眠りの世界に落ちていくのだった。

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