ep12.魔族とクソ上司
森の出口付近に近づいた頃、突然森の奥で何かがうごめいた。
「待て、今何か」
俺は咄嗟にN武器に手を伸ばす。
ヴィオを抱えているので無茶は出来ない。
「身を潜めるぞ。今はあまり戦闘はしたくない」
草の陰に身を潜め、うごめいているものが何かを確認する。
朝が近づき、徐々に辺りも明るくなってはいるが、鬱蒼とした木々に囲まれて視認性は乏しい。
まあ、同時にこちらも見つかりにくい利点はあるが。
しばらく身を潜めていると、禍々しいオーラを纏った光が一瞬光るのが見えた。
「危ない!」
おそらく攻撃を無造作に放たれたのだろう。咄嗟にミリアとヴィオを庇うようにして避ける。
「……あ、あいつは…」
そこにいたのは、あの時ルルを襲ったエルダだった。
エルダはこちらに気付き、ニタニタと不気味に笑った。
「……その人、僕を襲った魔族」
ヴィオが怯えながら指を指す。
ミリアにヴィオを頼む、とヴィオを託しここから逃げるよう促す。
「ち、ちょっとユウリ、N武器でアイツに挑むわけ!?」
「俺は一回この武器でアイツをいなしたし、何とかなる」
「もうっ、あんたなら本当にやってそうなのが怖いわよ!これ、仕方ないから使って!」
ミリアは限定SSR武器の剣を投げて寄越してきた。
「おっと、それなら使わせてもらう!」
俺は剣を構えながら、エルダの死角に入るように動く。
「あの時の人間か……まったく……五月蝿いなァァ」
エルダの放つ闇魔法を避けながら、エルダが少し疲弊するのを待った。
「お前、手を出さないんじゃないのかよ?次は目を潰すって言ったよな」
「ウルセェェナァァ……そのクソ魔族には手を出すなとは言われた覚えがネェ……」
「は、律儀にルルには手を出さないを守ってるのか?偉いな!次は魔族を襲うのかよ?」
「ソイツは出来損ないだ……魔族のクセにな。魔族の恥晒しは死んだほうがイイ存在なんだヨォォォ」
「何だって?」
俺はとりあえずミリアとヴィオを逃したら、コイツのことは少しばかりノシて勘弁してやるつもりでいた。
けど。もう少し痛めつけてやりたい気持ちが沸く。
俺はN武器を左手に、接近した。
「そんな武器でやられるかヨォォォ!!!」
エルダはまさにヒャッハーといった表情で、思い切り俺に向かって腕を振り上げてきた。
俺はそれをかわした後、N武器を大ぶりしながら気を逸らし、右手に隠し持ったSSR武器をエルダに向かって思い切り撃ち込んだ。
「ングァァァァァァ!!!!!!!!」
エルダは断末魔をあげ、その場に倒れ込む。
さすがSSR武器。攻撃力も高ければ範囲も広い。少しかすめる程度だったはずが、思いの外クリティカルヒットしてしまった。
俺はそのSSR武器を倒れたエルダの喉元に当てた。
「ヴィオのこともこうして襲ったのか?自分より力のない者を襲って何がしたい?」
エルダは文字通りグゥゥと根を上げながら俺を睨んできた。
「何故ヴィオを襲った……」
首に剣を突きつけ、押し込む。
剣の先が食い込み、どろりとしたものが溢れてくる。
「……出来損ないは危ネェンダヨ……魔族の支配が遅れるからナァ……」
「魔族の支配?この世界の支配ということか……?それとヴィオになんの関係が……」
「アイツが妖精族の手に落ちたら、魔族の支配が遅れるンダヨォ……」
「誰がそんなことを言ってるんだ?」
「……天から落ちてきた占い師がヨォ」
どういうことだ?確かに、魔族は妖精族ごと支配したがって戦争を仕掛けている。ルルの召喚の力を手に入れたがっていたのも、支配のための強力な武器が欲しいからだ。
だが、天から落ちてきた占い師……?
そんな者の存在は記憶にはない。
これも、なんらかのイレギュラーが起きているとみて間違いはないだろう。
「……オレは占い師についてはもう何もしらネェ……本当ダ……もうなにもしシネェから……助けてクレ……」
「……」
俺は命乞いをする相手をやるような畜生には成り果てたくはない。これだけやれば、俺には勝てないとわかっただろう。
「助けてやる。お前は上に使われてるだけだしな」
一瞬、クソ上司の顔が浮かんだ。クソ上司の元で働くのは本当に大変なんだぞ。
上司と好みが合わなきゃイベント案や企画なんて一生通らないし。
そのくせ、上司の手がベタベタに入りまくった企画で、うまく行かなかったら俺の評価が下がるんだ。
お前も大変だな。
それが嫌というほど刻み込まれているからこそ、俺の怒りはコイツを使っている上位魔族に向いていた。
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