ep11.ヴィオレッタ
「そうだ、ねえ!名前、ヴィオレッタ!ヴィオレッタは?」
ミリアがぽんっと手を叩き、キラキラとした瞳で俺と魔族の子を交互に見る。
「花の名前か?」
「そう、あとあたしの好きなゲームのキャラの名前なの〜!綺麗な名前じゃない?」
ミリアはどうどう?と魔族の子に訴えかけた。
「……きれい」
魔族の子はうれしい、といった表情で、目を輝かせている。
「いいんじゃないか?気に入ったなら」
「うん。僕の名前。ヴィオレッタ」
「決まりね!ふっふーん、可愛い〜!ヴィオ!」
はしゃぐミリアとヴィオを見ながら、俺は安堵していた。
ヴィオの病気は、完治シナリオ実装前にでも治すことができた。
となれば、ルルの運命を変えることも成功している可能性が高い。
それと同時に、不安要素もある。
ヴィオの失踪だ。
本来のシナリオに、ヴィオが襲われて失踪するといったシナリオはない。
今回は救えたものの、俺が動いたことで本来の運命に誤差が生じた可能性が高い。
そうだとすれば、気をつけて動かなければ……。
どこかを改変しようとすれば、世界は辻褄を合わせようと歪んでしまう。
ルルの死は、新規シナリオのアプデまでは絶対に有り得ないだろうと考え少し無茶をしたが、アプデ前でもシナリオ改変が起きるのだとしたら、結構危ない橋を渡っていたのかもしれない。
「……あの、お兄ちゃんとお姉ちゃん」
俺に抱き抱えられているヴィオがふいに口を開いた。
「……あの、僕を見つけてくれて、ありがとう。ずっとあそこでひとりぼっちだったから。こうして優しくしてもらえて、ヴィオは嬉しい」
「そうか、よかったよ。」
「僕は何十年も何百年も……ひとりぼっちで。たまーに、訪ねてきてくれる人もいたけど、みんな忙しそうで」
何百年。ヴィオは子どものような容姿だが、何百年と生きているのか。
——というか、何百年だって?何百年生きているのは魔族としてはおかしくないのかもしれないが、俺たちの世界では、このゲームはリリースしてから八年だ。
ここでは時間の進みが少し違うのか?
ヴィオが不思議そうにこちらを見てることに気づき、ヴィオの前で考えるのは一旦やめることにした。
「僕は……もう、ヴィオは、ひとりになりたくない」
「わかった。ひとりにしないよ。俺はこの世界についさっき来たばかりなんだ。だから、俺もひとりだった。でも、もうひとりじゃない」
ヴィオは笑う。
「あたしも別に……仲間になってあげても……いいっちゃいいけど……だって、あんたはとても今日来たばかりとは思えないし。不思議な感じがすんの。まだあんたのこと調査したいし」
「調査目的だったのか?」
「そ、そうよ」
「へえ」
「へぇって……ちょっと、もっとあたしに興味持ちなさいよ!」
「興味なくはないが。まあ、追々な」
「な、なによ、追々って!?こう見えても結構強いし可愛いんだから!」
少しむくれるミリアをヴィオが笑った。
「いいけどさー、もう!」
「……お姉ちゃん、お名前、は?」
軽く首を傾げるヴィオに、ミリアはあっと思い出したように口に手を当てた。
「そういえば言ってなかったかも。あたしミリア。こっちがユウリね」
「ミリアと……ユウリお兄ちゃん」
ゆっくりと指を差しながら確認するヴィオ。
「なんであたしだけ呼び捨てなのよ……」
三人でけらけらと笑う。
ヴィオは名前もなく、能力もなく、病弱な、いわば「モブキャラ」の一人に過ぎなかった。
けれど、そのヴィオが病気を克服し、名前を得て、仲間を得て、笑っている。
俺は誇らしかった。
俺が企画者でいた頃に与えてやれなかったものを、この世界に来て与えることが出来たらと、強く思った。
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