ep9.魔族の森で

 静かな森の中を二人で歩く。

 俺はミリアのことを聞いた。


「なぁ、ミリアは重課金者だよな。高難易度ボスのドロップアイテムだろ、それ」


「へええ、あんたもしかして、サブアカウント?よく分かってるじゃん?」


「いや、そういうわけではないが……」


 まあ、本来のプレイヤーとしてのアカウントと、テスト用アカウントもあるし、サブといえばサブになるのか?

 というか、どうせならそのどちらかのアカウントで転生したかった。


「ふーん。そっか。まあでも、なんかただの初心者じゃなさそうな気配がするよ。そう思ったから声をかけてみたんだけどさ」


「まあ、声をかけてもらって俺としてもありがたかったよ」


「それならよかったけどっ」


 ミリアの装備をまじまじ眺める。

 短めのスカートに、ざっくりと胸の開いた服…。

 重課金であることは置いておいても、嫌でも目に入るが、あえて見ないようにしていたんだが。


「えっ、ちょっと!何!?何見てんの!」


「ああ、いや、その、凄いなと…」


「何が凄いなって?」


「色々と、だよ。あっ、もうすぐ目的地だ」


 もー!話を逸らすな!と赤面するミリア。

 気が強そうだったが、可愛いところもあるんだな。


 そうこうしながらも、気づけば目的地のすぐそばまで来ていた。

 森の奥には小屋が立っていて、そこには病気がちの魔族が住んでいる。

 小屋の周りには薬草が植えられていて、そのどれもが綺麗に手入れされている…はずだったのだが。

 俺たちが着いた時、薬草は荒らされ、小屋の周りは酷い有様だった。


「っえ?うそだろ……」


 俺が知っているストーリーと異なっていた。小屋はいつでもひっそりと佇んでいるはずだったのに。


「どういうこと、これ?」


 おそるおそる小屋の扉を開けると、中にいるはずの病気がちの魔族の子がいない。

 家の中も荒らされ、棚に並んでいたであろう薬草が床に散らばっている。


 そんなシナリオはなかった。

 次のアプデでも、そんなシナリオの実装予定はない。


「なんだ、これ、バグ?か?」


 言葉に出したが、こんなバグはあり得ない。

 消失バグはあれど、家を荒らされ、家主が消えるなんてものはバグでも何でもない。


 俺が来たからだろうか?

 それとも、なんらかの理由でこの世界は運営の手から離れて、独立して動いているのか?


 どっちにせよ、早く、早く魔族の子を探さないと——


 俺は心当たりがありそうな場所を、脳内のマップで検索を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る