ep1.企画者の転生

 真っ暗な闇の中、かすかな音が聞こえる。


 何回も、何百回、何千回と聞いた音。


 忘れるわけがない。


 これは——ダクフェのガチャの演出音だ。


 SSR武器は5%。

 限定武器のピックアップ確率は……1%。

 そこそこ良心的な方だと思う。


 ……それで、結果は?


「きゃ、人が……!」


 突然、誰かの驚いたような声が頭に響いて、はっと目を覚ます。


「……?」


 あたりを見回す。

 そこに広がっていたのは、見慣れた会社の景色ではなかった。


「なんだ、ここは…」


 そう声に出したものの、ここがどこかはすぐにわかった。


 そこには、八周年を祝う飾り付けがなされたダクフェの街マップが広がっていた。

 冒険者ギルド、召喚所、広場——

 豪華な花々で彩られた街は、まさに俺が発案したものだ。


 しかし、俺は会社にいたはずだ…夢を見ているのか?

 会社で居眠りだなんて。

 いや、確か俺はあの時疲れ果てて……。


「……あの、すみません」


 先程の声の主だ。


「いつもは武器が召喚されるはずなんですが、ちょっと練習していたら、人を召喚してしまったみたいで……」


「ルル!」


「はいいっ!」


 思わず名前を呼んでしまった。

 この「ルル」というキャラクターも、俺が大まかな設定を決めて、ガチャ召喚用に発注したキャラクターだった。


 武器ガチャは課金用のルビーを支払えば、この「ルル」が、武器を魔法で召喚してくれる。


「わ、わたしをご存じなんですね?」


「ああ、よく知ってる……」


 薄い金髪を編み込みんだロングヘアに、白い大きな花の髪留めをつけている。

 妖精族の彼女の背には透明な羽が生えており、彼女がその羽を小さく羽ばたかせると、かすかな花の香りがした。


「もしかして、新しい冒険者さんですね!」


 俺は、戸惑いながらもそっと頷いた。


「ルル、本当に、ルルなのか……」


 いつもガチャ画面から微笑んでくれた彼女。

 その彼女が、目の前にいるのだ。


「はいっ!本当に、ルルですよ。冒険者さん」


 俺の脳裏には、サービス終了という文字が浮かんだ。

 途端に涙が込み上げてくる。


 ここは半年後には、なくなってしまう世界。

 これが夢なら、楽しめばいい。

 そうでないなら——


 俺は、どうしたらいいのだろうか。


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