この世界がもうすぐサービス終了するという事を、俺だけが知っている。

@mashiroyuki_

ep0.プロローグ

 本当に、どうしてこうなってしまったのか。


 リリース当時は、月商数十億円の売り上げを叩き出した人気ソーシャルゲーム「darkness fairy」——通称、「ダクフェ」のサービス終了が決まった。


「はぁぁ……」


 深いため息が出る。

 それもその筈、俺はこのゲームの企画者であり、運営として、プレイヤーとして、すべての時間と給料をこのゲームに捧げてきた。

 ゲーム会社に就職したのも、当時開発メンバーを募集していたこのゲームに惹かれたからだ。

それまでゲーム業界経験のなかった俺は、一度は面接に落ちたものの、諦めきれずに恥をしのんで何度もこの会社の面接を受けた。

 ついにはその熱意が伝わり、ようやく企画者の一員になることができたのだ。


「八年、か……長かったような、短かったような、だな」


 サービス開始から八年。

 その八周年を迎えた今日、突然にサービスの終了が運営チームに告げられた。


 八年間も運営が出来るソシャゲなんていうのは、星の数ほどあるゲームの中のほんの一握りに過ぎない。

 そう思えば、かなり頑張った方だろう。

 しかしダクフェが盛り上がっていたのは五年余りで、そこからは不具合やら、ガチャ確率関連の炎上やら、イベント難易度の調整ミスやらで、ユーザーはみるみる離れていった。


 今や売上は、月商三千万を割るほどに落ち込んだ。

重厚な世界観が特徴なダクフェは、ダークファンタジーMMORPGで、メインシナリオやイベントもかなり作り込まれている。

 この売り上げでこれだけの壮大なゲームを運営していくのは難しい。

 ある程度の開発規模があるソシャゲならば、三千万という数字は厳しいことがほとんどで、ダクフェは数億は売り上げがないと厳しいほどの規模感だった。

 そこで、あと半年ほどでサービス終了をするという決断に至ったのだ。


 まあ、妥当な判断だろう。


「……疲れたな」


 すでに時計は深夜の二時を回っていた。

 ここしばらくは、家にも帰っていない。


 俺は会社の机で、いつものようにダクフェを起動した。

何気なくガチャ画面に行くと、可愛らしい妖精の女の子がいつもの笑顔で俺を見つめていた。


「もうすぐお別れか……」


 ダクフェをまた盛り上げたくて、ここしばらくは必死で企画の練り直しや新規ユーザー向けの施策、様々なイベントの考案などもし、必死に働いてきた。

 時間と給料と、睡眠までもを捧げて。

 バグや不具合も出さないように神経を尖らせ、常にダクフェのことを考える日々。

 けど、それらも徒労に終わった。


「どうすりゃよかったんだよ……」


 三ヶ月後には、ゲーム内にもサービス終了の告知を出す予定だ。

 その文言も考えなければいけないな、と頭を巡らせると、虚無感が一気に押し寄せる。


 ダクフェにこそ愛はあれど、会社にいい感情はない。

 上がらない給料、嫌味な同期、クソ上司——


 ダクフェがなければ、こんなところにいる意味もない。


 俺は何だか今までの疲れがどっと出たように感じて、机に突っ伏した。

 頭が猛烈に痛い。

 寝不足だろうか、目の前の景色が歪む。

 意識が遠のいていく感覚。


 起動されっぱなしのダクフェの画面からは、いつも通りの街の曲が流れていた。

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