火曜日の優柔不断さん
小さい頃から、ご褒美を何にしようか決めてから頑張ることが多かった。
夏休みの宿題とか、部活の大会とか。
そのイベントに対してモチベーションがあるというより、その後に待っている幸せな時間がモチベーションになる。
それが癖になって、むしろご褒美がないと頑張れない性格になってしまった。
仕事はそれなりにやりがいもあるけど、やっぱりご褒美は必要で。
私にとって、火曜日のご褒美は。
「あった。」
今日のお目当ての甘辛チキン目玉焼きのせ丼!
そのまま食べたらサクサクで美味しいであろうカリッと揚げた鶏肉には、結構濃いめで甘辛いタレが染み込んでいる。
噛むとジュワッと肉汁が口の中に広がる。
目玉焼きはちゃんと半熟。素晴らしい。
思い出しただけでよだれが出そう。
手を伸ばそうとしたその時。
「君、ここよく来る?」
甘辛チキン目玉焼きのせ丼のことしか頭に無かったから、急に話しかけられてめちゃくちゃびっくりした。
え、なに?
てか誰このイケメン!?
たぶん顔に全部出てたんだ思う。
「ごめんごめん。驚かせちゃった。」
「い、いえ。」
「美味しいの、それ。」
「はい。」
「じゃあ僕もそれにしようかなあ。」
お昼の楽しみを簡単に決めるんだなあ。
私は朝から何にしようか考えに考え抜いて決めるのに。
「ちなみに、そっちのロコモコ丼も美味しいです。ハンバーグが結構ボリュームあります。」
「へえ。」
「あと数量限定のローストポーク丼はお肉が柔らかくて、ソースが絶品です。ナポリタンは想像以上に粉チーズかかってるのでハマる人はハマります。」
「詳しいね君。」
「じゃあ、失礼します。」
「あ、ちょっと待って。」
「はい?」
「君が決めてくれない?」
「…はい?」
「僕さ、優柔不断なんだよね。選択肢が増えれば増えるほど決められなくなる。」
よかれと思ってラインナップの説明したんだけど、むしろ困らせてしまったのかな。
「適当でいいからさ。」
「適当と言われても。人のお昼ご飯を決めるなんて…。」
「そんな深刻に考えないでいいよ。」
「だってその日のモチベーションを左右するかもしれないし。」
「あははっ。面白い子だね君。」
「あの、午後のスケジュールはどんな感じですか?」
「ん? 確か、会議が2件、いや3件だったかな。今日は会議室に篭りっぱなしだよ。」
「じゃあ、ナポリタンで。そのコーヒーに合いますから。」
「え?」
彼が手に持っているペットボトルのコーヒーは500mlサイズで、もしかしたら会議に集中するためなのかな、なんて。
「なるほどね。じゃあナポリタンにするよ。ありがとう。」
「いえ。」
「じゃあまたね。」
すごいニコニコしてたなあの人。
不思議な人。
というかちょっと変?
初対面でこんなに会話するの、私にとっては信じられない。
でもなんか、こう、人を巻き込む力がすごい。
そしてとてもイケメンだった。
結構高そうなスーツを身に纏っていたけど、それを着こなすスタイルの良さ。
それなのに気取ってないし、人懐っこそうな笑顔で。
からの優柔不断というギャップ。
きっと魅力的な人なんだろうな。
今更だけど、なんかどこかで見たことあるような…。
でもあんなイケメンの知り合いなんていないしな。
また会ってみたいかも。
推しメンになりそうな予感。
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