月曜日の救世主
わたしの朝の過ごし方はだいたい一緒。
目覚ましのスヌーズ機能に起こされて、顔を洗って、トーストをコーヒーと一緒に流し込んで、着替えて、歯を磨いて、化粧をして、寝癖を直して。
それから家を出ると、大体同じ時間になる。
乗るのはいつも8時08分のバス。
この時間だったら、ギリギリ座席に座れる。
それ以降は混み合ってくるので、着くまでの25分間は立ちっぱなしだ。
もちろん7時台のバスは確実に座れるけれど、極力お家でゆっくりしたいし、職場に長く居たくはないから、08分発を目指している。
でも月曜日だけは違う。
月曜日だけは8時21分のバスに乗る。
きっかけは、わたしの体調が絶不調だった時のこと。
女の子の日のせいで貧血気味。
食欲が増して前日の夜に過食、翌朝は食欲がわかなくてパスした。
コーヒーだけは飲んでいつも通り家を出たけど、ぼーっとしすぎていたようで、家を出て少ししてから携帯を忘れたことに気づいた。
こういう日に限って。
仕方ない、戻るか。
今日は一本後のバス。座れたらいいな。
その願いが届くことはなく。
わたしが乗った時にはすでに立っているお客さんが何人かいた。
立ちっぱなしコースか。
10分ほど過ぎたあたりから異変が現れた。
耳鳴りというか、水の中にいるような閉塞感とともに、視界に黒いものが混じり始めた。
あ、これやばいやつじゃない?
多分朝ごはんを抜いたことが追い討ちをかけていた。
貧血に加えて低血糖もあったのだろう。
だんだん冷や汗をかいてきて、額の汗が頬に伝う。
とにかく倒れないようにと、手すりに両手で掴まって硬く目を閉じた。
「あの。」
「…。」
「大丈夫ですか?」
「…。」
最初はわたしに話しかけているのだと気が付かなかった。
いきなり腕を掴まれて、ようやく声の主に顔を向けようとするけど、なんせ視界がブラックアウトしかけている。
おそらくわたしの様子を察して席を譲ってくれたのだろう。
手に導かれるまま、椅子に座らせてもらう。
「すみません。」
「顔真っ白。あのこれ。」
自分じゃない人の手がわたしの手に触れて、手のひらの上に何かを乗せた。
「チョコレート。少し元気になるかも。」
なんて親切な人なのだろう。
声を出す気力もなくて、こくんと頷いた。
チョコレートの甘さが口の中に広がって、体に染み渡っていく。
しばらくすると視界が戻ってくる。
お礼を言おうと思って顔を上げると、そこには女の人が立っていた。
さっき聞こえた声は男の人だったのに。
もうバスから降りちゃったんだ。
一体誰だったんだろう。
顔は知らない。
覚えているのは声と、手の感触。
あの時もらったチョコレートが外国のちょっと良いやつだったことも手がかりになるだろうか。
包み紙はまだ捨てられないでいる。
会ってちゃんとお礼がしたい。
月曜日の救世主を探すため、わたしは一つ遅いバスに乗る。
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