第15話 翼sideパウダールーム

夕方、会社のパウダールームでメイクを直しながら、私はぷりぷり怒りながら昨日の話をする美那の隣で、相槌を打っていた。


「ほんと信じられない。わざわざ出てあげたのに不用心だって怒られたのよ?開けてくれって言ったのはあの男なのに!」


私は美那の耳の上であげていた髪を下ろして、少しコテで巻いてあげながら言った。


「確かに変な男ね。それで差し入れは何だったの?」


美那はチラッと私の顔を見つめて言った。


「…モルガのチョコレート。」



私は我慢出来ずに笑った。結局、この子は美味しい食べ物で懐柔されがちなのだ。必要な場面では冷たくあしらうように頑張っては居るものの、根本的に人が良いので、やり切れない所がある。私はふと、さっき見せてもらったコスプレ画像を思い出して尋ねた。


「ねぇ、もしかして美那の言う、そのムカつく男に写真撮ってもらったの?」


美那はますます目を泳がせて小さな声で言った。


「…だって、コスプレ見られたのは2度目だし、自分で撮るよりちゃんと撮れるから…。もちろん、玄関で撮ってもらったわよ?中には入れてないから!」



私は美那の唇に仕上げのグロスをのせながら言った。


「呆れた。美那は用心深いのか、そうで無いのか分からないわね。その男の言うことも正しいかもしれないわ。まぁ、その話は置いておいて、今日は商社の男だから張り切ってね。美那もいい加減ボーイフレンドの一人や二人作らないと。せっかくの美貌が勿体無いわよ?」


私はそう言いながら、美那を眺めた。今日は食事会ということでシンプルだけどラインが上品な、明るいイエローのワンピースだ。Vネックの胸元のプチジュエリーが引き立っている。大きくカールさせたミルクティー色の明るい茶髪は、少し釣り上がった大きめの猫目によく似合っている。そこに立っているだけで、ゴージャスな美人の美那は、少し自信無げな気持ちを瞳に映していた。私は一緒に鏡に映りながら言った。



「ほら、お姫様?こんなに綺麗なんだから自信持ってね?きっと素敵な男性が姫の足元に跪くわ。ふふ。」


私たちは久しぶりのお食事会に浮かれた気分で、他の部署の女子たちと合流して待ち合わせ場所へ向かった。今日のメンバーは私が選んだ美那に優しいメンツだ。


美那は美人すぎて妬まれがちなので、性格の良いそこそこ綺麗な女子たちじゃないと居心地の悪い思いをする。私は美人すぎて散々な目に遭って来た恋愛に奥手な美那を、何とか幸せにしてあげたいのだ。さぁ、狩りに行くわよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る