第14話 お家で気晴らし
病院から駅に向かいながら、今夜の計画を立てる。昨日できなかったコスプレの調整をしなくちゃいけないし、やる事はいっぱいだ。
しかも明日は翼が企画した合コンぽい集まり、食事会がある。明日は無理だからやれるときにやらなくちゃね?私は急に家に帰るのが無性に楽しみになって、病院の廊下で橘兄に怖い顔で問い詰められた事をすっかり記憶の彼方へ押し流した。それが私の敗因だったかもしれない。
「さあ、出来た!これを撮って明日翼に評価してもらわなくちゃ。」
私はご機嫌で独り言を呟いた。ルームメイトがいないと、独り言が多くなっちゃうのが我ながら滑稽だなと思いながら、私は姿見に写り込む自分の姿を色々な角度で撮った。うまく写らない部分もあるけれど、それはもうしょうがない。スマホで確認していると、マンションのチャイムがなった。
このマンションは、二人でシェアハウスするという事でオートロックにしなかった。その分広々とした室内が気に入っていたのだけれど。その節約が今になって後悔の元になるとは、その当時は予想しなかったのだ。私は今度こそインターホンを使って応答した。
「…私だ。橘征一だが、開けてくれないか?」
私はインターホンの画像に写る橘らしき人物を眺めながら、しばしフリーズした。何で、この人が私の家の前に居るんだろう…。別に用は無いはずだ。これってストーカーってやつだろうか。私は恐る恐る答えた。
「あの、夜も遅いですし。ドアを開けるのはちょっと不用心というか…。何か用があるんですか?」
私は息を殺して、橘の反応を待った。
「…ああ、確かにこんな時間に一人暮らしの女性を訪ねるのは非常識だったな。いや、今日も病院に来てくれると思わなかったので、さっき驚いたんだ。…それで連絡先を教えてもらってないと思って、訪ねたんだ。
あ、あと、甘いものが好きだって尚弥に話してたって聞いて、差し入れも持ってきた…。…そうだな、差し入れは玄関に置いておくから、連絡先は今度病院で教えてくれ。‥じゃあ。」
少し慌てた様子でそう言う橘を見て、私は何だか込み上げるものがあった。なんだろうこの人。わざわざそのために来たの?私は少しほだされて、インターホンに呼びかけた。
「…ちょっと待っててください。」
私は玄関に急いだ。ドアを開けるとそこにはぎょっとした顔の橘兄が待っていた。橘は私をサッと見下ろすと、少し硬い声で言った。
「君はいつも家でその格好をしてるのか?…その格好で、対して知らない男の前に出てくるなんて、不用心にも程があるだろ⁉︎」
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