第5話 橘弟の事情

私はドキドキし始めた鼓動を感じ始めると、イケメンは身体に悪いと思いながら、顔をしかめたまま話の続きを待った。


「‥弟は2か月前にアメリカから帰国したばかりで、知り合ったばかりの君の従姉妹と直ぐに恋人関係になったみたいだった。久しぶりの日本人の女の子にすっかりハマってしまった尚弥は、色々お金も時間もかけてたようだよ。


でも、突然もっと好きな人が出来たと振られてしまってね。まぁ、尚弥も変に久しぶりの日本人との恋愛に理想を見ちゃったせいか、ショックが大きかったようだ。酒も弱くはなかったが、まぁ運が悪くて転落事故が起きたんだ。命には別状は無かったんだが、なかなか意識を取り戻さなくてね。…随分ヤキモキさせられたよ。」



そう言う橘の横顔にはその時の心労が浮かんでいるようで、私は思わず橘の手を握っていた。つい握ってしまった私の手を見ながら、橘はその上から反対の自分の手を重ね合わせた。


「慰めてくれたのかい?…君は優しい人だ。そう、私は心労で疲れ果てているんだ。少しだけこのままで。随分慰められるものだね…。」


そう言って、私の手を離してくれなかった。私は、もう開き直って、橘の大きな手の感触だとか、温かさだとかを気にしないようにしながら話しの続きを促した。



「…ああ、さっきの続きだが。目を覚ました弟は「ミナ」に振られた事をすっかり忘れてしまっていた。ヤケになって酔っ払った事も。頭を打ったせいでその前後の記憶がすっぽ抜けたらしい。まぁ、よくある現象だと医者は言っていた。


だが、困ったことになった。弟は恋人になぜ会えないのか、会いに来ないのか私たちに尋ねて、困らせた。医者はショックを与えるのは早いと言うから、本当のことも言えないだろう?


しょうがなく「ミナ」を連れてくるよう、私の出動となったわけだ。まぁ、恋人たちが別れるのはしょうがないことだ。でも君の従姉妹の場合、さっさと別の男と旅立ったって事はなかなかの強者だ。弟も見かけの清純さに騙されたんだろう。」



私は従姉妹の美波の悪口を聞いていたが、あえて反論はしなかった。実際、美波は男癖が悪くて、常に4~5人の恋人をローテーションしてるような悪い女だったからだ。


私がいつもそろそろ一人に絞るように忠告していたのだけれど、私の方が恋愛下手過ぎて問題だと説教される羽目になるばかりで、最近は忠告もせずに傍観していたのだ。その結果が、美波の尻拭いに巻き込まれているのだから、割りに合わない…。


私が美波の事を黙り込んで考えていると、私の手を橘が優しく握り返した。


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