第6話 なぜか橘征一の腕の中
「君も、従姉妹にだいぶ振り回されているようだ。私たちは似たもの同士かもしれないね?」
私は何だか可笑しくなって、クスッと笑うと頷いた。
「ええ。そう言えば私は中学生の頃から、美波の尻拭いに巻き込まれてきた気がします。おかげで男の子と付き合うことに慎重になってしまって。でも外見が派手だから誤解されやすいんですよね。お陰で外見だけで寄ってくる異性をシャットアウトはしやすいです。」
橘は私を見つめると耳元でささやいた。
「君にキスすれば、大概のことは直ぐに分かるよ…。」
私は顔が熱くなって、橘の手を振り払うと横目で睨んだ。
「突然キスしてくるような人もシャットアウトですっ!」
丁度その時、タクシーが停車して病院に到着したようだった。私は通常の一般の入院棟とは別のエレベーターへ案内されて、一緒に乗り込んだ。いよいよ橘弟と面会だ。美波のフリは出来なくても、優しくすることは出来る。まだはっきりとしてない様子ということだし。緊張した私の表情が固かったのか、橘は私を引き寄せてそっと抱きしめた。
「大丈夫。上手くいくさ。わたしも病室に一緒に居るから…。」
私は自分の事でいっぱいになっていて、橘がどんな顔をしているのか見ていなかった。橘が咳払いした丁度その時、エレベーターが到着した軽いベル音がした。
私は自分が、この出会ったばかりの男の腕の中にいたことに、我ながらギョッとしてしまった。どうかしてる。今までの自分では考えられないことばかりしている様に思ったけれど、きっとこんなトラブルは滅多にない事だからだろうと気持ちを切り替えた。
最初の、嫌な男だと思った印象がどんどん薄れていく事には気づかなかったフリをして…。
特別室というプレートを見ながら入室した豪華な部屋の真ん中のベッドに、青褪めた顔でこちらを見つめる若い男が横になっていた。
「尚弥、起きてたのか。ミナを連れてきたよ。どうも連絡が取れなかったらしくて、来るのが遅くなってしまったらしい。」
橘はそう言うと、先に部屋に入って行った。私はなるようになれと、思い切って美波を演じようと思った。私は橘を追い越すと、尚弥の枕元にかがみ込んで少し高い声で呼びかけた。
「尚弥、早く来れなくてごめんね。階段から落ちたの知らなくて…。大丈夫?」
そう言って、尚弥の青褪めた頬をそっと触った。尚弥はクシャリと嬉しげに笑うと、傷に触ったのか痛そうな顔をして言った。
「ミナ、来てくれたんだ。キスはしてくれないの?」
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