第3話 従姉妹のミナミ

私はハッとして男の手元にあったカードを見つめた。そこにはルームシェアしている従姉妹が、ナンパした男に渡していると言っていたカードがあった。


「‥そのカード!…たぶん私の従姉妹、田辺美波のものです。」


その男は最初に会った時のように厳しい顔をすると、苦々しい顔をして言った。


「どうやら相手を誤解していたようだ。すまなかった。‥それで、その従姉妹はどこに居るんだ?」


私は、またもや窮地に陥った気がした。従姉妹のミナミは、いつも私に尻拭いさせてばかりだ。私はため息をつくと言った。



「彼女は一昨日、海外旅行へ行ってしまいました。…多分新しい彼氏と。」


私は目の前の男が、従姉妹をののしっているのを小さくなりながら、眺めていた。何だか随分なとばっちりだったけど、これで私も解放してもらえるだろうと思った。


あんな蕩けるようなキスをしたのは初めてだったけれど、いくらイケメンでもこんな交通事故のようなキスはノーカウントだ。そうしよう。私が一人そんな事を考えていると、目の前の男はいつの間にか黙って私を見つめていた。


「なぁ、君と従姉妹って似てるかい?写真とか無いかな?」



急に猫に餌をやるみたいに、優しい声を出す男を訝しく思いながら、私はスマホで旅行前に撮った写真を見せた。男は写真をまじまじと見つめながら、何かブツブツ呟いた後私を見つめて言った。


「…雰囲気は似てるな。どうしても弟に会ってもらいたいんだ。私の車で、一緒に病院へ行ってくれないか。あいつがちょっとパニクってて、もうこれしか手がない。それに私は怪しいものではない。橘 征一だ。」


そう言って渡された名刺には、日向コーポレーションの課長 橘征一とあった。日向コーポレーションはCMもしているような大きな会社だ。この見た目の若さで課長なら、きっと仕事も出来るんだろう。とは言え、言いなりになるのは嫌だったし、初対面の男を信用するほど世間知らずでは無かった。…うっかりキスされたけど。



「…分かりました。弟さんを心配する心に免じて、私が従姉妹の代わりに病院へ伺っても良いです。でも貴方の車で行くのは嫌です。全部嘘かもしれないし、大体見も知らずの相手の車になんて乗れないです。病院さえ教えてくれたら、用意でき次第自分で向かいます。それなら良いでしょう?」


目の前の男は、私を見つめると強情だなとかぶつぶつ言ってたけれど、時計をチラッと見ると言った。


「わかった、じゃあ、車はそこら辺の駐車場に停めて来るから、一緒にタクシーで行こう。それなら良いだろ?じゃあ、10分後にマンションの下で。」

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