第7話 黒い集団 その3

「ちょっと、何すんだ! コード壊すなよ!!」


踏み潰されて変形してしまったコードに手を伸ばす。


「失礼します。」


部屋に響いていた知らない男の声が、すぐ隣から聞こえる。

手はコードに触れる前に、声の主に掴まれてしまった。


「あんた、さっきから聞こえてたあの音声の?」


ジュンの体に緊張が走る。早鐘のように脈打つ心音を悟られぬよう、呼吸が浅くなり口が乾き始めてくる。


「はい。」


男は短く肯定した。彼がはめている皮手袋は、入れられる力に耐えられず音を出す。少しずつ強められる力がジュンの恐怖心をあおり、体を硬直させた。


「その様に硬くならずに。」


柔和な表情とは裏腹に、物凄い力でジュンを上へ引っ張り上げるように立たせる。掴まれた手首は、関節が抜けるのではないかと心配になる感覚が生じてくる。


「手首を離してくれないか。」


ジュンの表情が痛みに歪むのを楽しんでいるかのように、口角を上げた。

人並外れたこの男の力により、ジュンの足は床から浮き上がっていて、掴まれている手首に全体重が集中している状態だ。


「おっと、これは。人が儚いものだという事を忘れていました。」


どこぞの演者のように、大袈裟に両腕を動かしながら言い、ジュンの手首から手を突然離した。体を振り回された状況でされたため、バランスを崩し、左半身から床へ落下し打ちつけてしまう。


「さっきから理解できないことが多いんですが?」


ジュンは態勢を整えながらも、痛みに顔をひくつかせる。

それを見て彼らは嬉しそうに笑うのだ。


(この馬鹿力はアンドロイドだからか。でも、おかしいな。)


アンドロイドは月に居住している人には欠かせない存在となっており、特に明るい土地のコロニーに住んでいる者にとっては、一人に一機のアンドロイドが付いている。という話を耳にしたことがあった。

想像をするに、執事のようなものなのだろうが、現在目の前にいるアンドロイドと推測できる存在は、一度も見聞きしたことのない感情を持ち合わせている。人に対して嫌味のある行動はしないはずなのに。


「私たちの存在に困惑しているのは理解しています。こちらも探していたあなた様が見つかり、心から喜んでいるのですよ。」


そう言って、今度は恭しく胸に手をあて腰を折る。

彼はこの団体のリーダー格なんだろう。他のアンドロイドも彼と同じ格好をし、同じ動作で腰を折る。コードの中を通る明かりにきらりと輝きを見せたのは、彼らの襟元に共通でつけられているピンバッヂだ。

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