第6話 黒い集団 その2


クリスが認証パネルに手を伸ばしかけてやめた。


「オレが触れるのはまずいな。ジュンがやってみてくれ。」

「りょ、了解です。」


促されるままジュンは自分の右手で触れてみた。

「確認しました。」という機械音声と共に、ジュンが入れるほどの大きさに壁が開く。


「これは。」

「圧巻だな。」


出現した扉の中を二人して覗き込む。

そこはサーバールームだった。

天井に届きそうなくらい大きい箱のような旧型のもので、様々な色をせわしなく表示しながら、何十機も奥へ向かって並んでいる。

床や壁はサーバーに繋がれているコードがびっしりと張り付いているようで、足の踏み場もない。

コードは透明で中をカラフルな電気信号が、素早く通ったりゆっくり通ったりしている。


「まるで生き物みたいだ。」


気圧されているジュンの背中に声が掛かる。


「ジュン。オレはここで待機しているから、出来るだけの範囲でいい。一人でやってみろ。」

「了解です。」


ジュンは心の中で覚悟を決め、部屋の中へ足を踏み入れた。


「ジュン! 慎重にな!! 」


焦った顔で叫ぶクリスが、ゆっくりと閉まる扉に隠されていく。

ジュンが返事をする暇もなく、扉は冷たく重い金属音と共に固く閉ざされてしまった。

部屋の中は真っ暗になるが、サーバーやコードの点滅する小さな数多の光で幻想的な空間になった。


(きれいだなー。)


自分がどんな状況になっているのか、一瞬頭の中からなくなってしまったようで、ただ、ただ、幻想的空間に魅入っている。


「あ、いけない。仕事しないと。」


幸いに手持ちの照明を点けなくてもよいほどに明るい。

すぐ側にあるサーバーに近寄り、確認すべきであろう箇所を見る。


「特に異常ないみたいだけど。」


ジュンはもう一機のサーバーを見る。が、異常を知らせるものは何もない。


「サーバーじゃなくてコードかな。」


自分の足元を見てみる。

直径一センチにも満たないものや、三センチ程のコードの中を様々な色が一定のスピードで通過していく。


「これ、ずっと見てると目がチカチカしてくるな。サングラス持ってくればよかった。」


後悔を独り言として口に出すと、身をかがめてコードに触れる。


「依頼通り。とまではいきませんでしたが、あなた一人でこの部屋へ入れるようにしたのは正解でした。」

「だ、誰だ! 」


どこからともなく男の声がする。

まだ行っていない部屋の奥からするのかと、立ち上がり恐る恐る奥へ。

ジュンは身を隠したい気持ちになり、サーバーを盾にしながらゆっくりと歩を進めていく。


「可愛らしいですね。そんなに怖がらないでください。」


再び男の声がする。

ジュンの体は緊張してこわばった。

それを解こうと腕をなでる時に、腕時計の機能の一つである録音ボタンをタップした。


「点検の名目でお呼びして申し訳ありません。」


誰かの声が言い終わると、部屋の奥から複数人の靴音がする。

コードでびっしりの床でなぜ靴音が鳴るのか。

小さな疑問はすぐに解消した。

靴音ではなく、コードを踏み潰す音だったのだ。

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