雨池博

 結局最後まで聴いてしまった。普段はいくつかの団体を聴いたら帰っていたのだが、今日だけは最後まで聴いていたかった。楽しんでいたかった。音楽を感じていたかった。気が付けば昼食もとっていない。


 かつて散歩で通っていた河川敷を歩く。雨は降っているか降っていないか分からない程度の小雨で、態々わざわざ傘をさすほどでもないと思ったので雨を身体に受けて歩いている。やっぱり小雨はいいものだ。

 この道を歩いていると、孫や妻、飼い犬のことを思い出す。


 最後に聴けて良かった。いつもタイミングを逃してしまっていたから。それに、今日は新しい芽にも出会った。枯れそうになっている芽。でも多分、彼女なら水を受けて成長していくだろう。そして、美しい花を咲かせるはずだ。できればそこまで見届けたいくらいだったが、部外者の私がそこまでするのも変な話だ。


 私のかつての夢。決してプロのアーティストではなかった。音楽の楽しさを皆に伝えたい。それだけだったはずなのに。


 ふと何を思ったか立ち止まる。空を仰ぐと、雲間からわずかに光が見えた。


 雨が、止んだ。

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