雨笠達郎
私は車を走らせる。外はかなりの大雨だ。ワイパーを使ってもなお視界が悪い。
「お父さん、こんな雨の中運転できるんだ」
助手席で娘がニヤニヤしている。な、何を。そんなに馬鹿にするな。
「そうねー。成長したんじゃない?」
妻も後部座席で笑った。
「これくらいどうってことないさ」
私は少し強がって答えた。
正直なところまだ少し怖い。でも娘は義足だ。雨の中歩かせるのは危険すぎる。妻は相変わらず運転が下手だし、仕方がない。
「そういえば、華ちゃんに会うのは久しぶりなんじゃないか?」
「そうね。もう三年くらい会ってないかも」
娘は高校を卒業すると大学に進学し、今では一般企業に務めながらボランティア活動をしている。パラアスリートも高校時代には視野にあったらしいが、自分のように事故や病気で四肢を失った子どもたちに、運動の楽しさを思い出してもらいたいんだそうだ。様々な施設や特別支援学校を渡り歩いてイベントを開催している。
そして今日は、娘の親友である華ちゃんの所属する楽団の定期演奏会だ。普段私や妻はこの手の演奏会に赴くことはないのだが、娘の送迎がてら折角だから見ていこう思ったのだ。入場無料だし。
「最近、どうなんだ?」
「あー、あのね、この前話した
最近の楽しみは、娘からボランティアの話を聞くことだ。
あの時の自らの判断を正当化するため、と言ってしまえば簡単だが、娘と同じ境遇になった子どもたちだけでなく、その親たちに希望を与えるような活動をしている娘が誇りだった。
娘がボランティアについて話す中、私はホールに向かって車を走らせる。雨音は時折娘の話を遮るが、それは後で聞き直せばよかった。何より、娘はその話をしている時が一番生き生きとしているのだから。
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