雨郡華―⑤

 ついに本番。昨日から降り続いた雨は、その勢いを弱くして今日も雨音を立てていた。やっぱりあたし、雨女なのかな。

 三月頃から練習してきたことの集大成。出演団体は約三十校。そのうちの上位六番までに入れば次の大会に進むことができる。もちろん結果がすべてではないが、ここで落ちてしまえばもうこの曲を吹くことはない。


 チューニングを済ませたあたしたちは、舞台袖で待機していた。徐々に速まる鼓動。皆も同様に緊張しているようで、いつもハイテンションな唯も、目を瞑って指を動かし続けていた。


 前の団体が演奏を終え、反対側の舞台袖に消えていく。それを確認すると、あたしたちが入場を開始した。このホールは県内でも比較的大きく、二階席まである。審査員は二階席にいると聞かされていたから、音は上に飛ばすんだ。


「出演順六番。海堂市立海堂中学校……」


 演奏曲は一曲。約五分間。集中する。

 先生の持つ指揮棒に、全員の視線が集まった。


 中音域のハーモニーと共に曲は始まった。そこからクラリネットの旋律。そしてトランペット、と美しい旋律がつなげられていく。今までで一番上手……と言えるかは分からないが、全員の意識が一つになっている。

 中盤はピッチに最新の注意を払う。激しい部分のないこの曲は、その分強弱や一体感を表現しなければ高得点は期待できない。

 そして、再び幻想的なハーモニーで曲が終わる。作曲者も、曲も、全然知らない名前だったが、この数か月で大好きになった。


 指揮棒が下りる。終わった。想像通り、五分間はあっという間だった。でも、楽しかった。いっそのこと、これで音楽を辞めてしまえば……なんて考えが頭をよぎる。


 退場しようと立ち上がる。楽譜を持って、歩き始めた。

 その瞬間。

 いや、そんな、まさか。

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