雨宮遥―④
いつものように朝食をとる。窓の外は相変わらずの雨。
ふとカレンダーに目をやると、『インターハイ』の字を見つけてしまった。意気揚々とカレンダーに記入した数か月前が思い出される。
「そっか。今日か」
私は誰もいない家の中で呟いた。母親は仕事に行っている。家事は基本的に私の仕事。父親がいないんだから仕方がない。祖父母は遠くに住んでいるから、ここに呼ぶわけにも、私たちが祖父母の元に行くわけにもいかなかった。
きっと、この程度の雨じゃ走るんだろうな。ふとそんなことを思う。全国高校総合体育大会。私の憧れだった舞台。もちろん、私が予選に出ていたところでこの舞台に立つことができていたかと聞かれても、即座に首を縦に振ることはできない。でも、今では夢に見ることもできなくなった。自らその道を絶ったのだから仕方がない。
そう。全部、仕方がない。私にはどうすることもできない。
「あ、そういえば」
『インターハイ』の隣の欄には同じく『インターハイ』の文字の下に『華の大会』と書いてあった。
「今、何してんのかな」
私は携帯の画面で指を滑らせる。もちろん彼女の連絡先なんて見つからない。華、携帯持ってないんだった。
華は、私の二つ下の後輩。陸上部の後輩だった心寧の友達で、一回私の大会に来てからというもの、私のファンになってしまったらしい。そのうち心寧なしでも二人で遊ぶようになり、私が全然分からない音楽の話もたくさんしてくれた。夏に大事な大会があるらしく、一度だけ見に行ったことがある。正直興味は全くないが、それなりに楽しめた。
「行ってみようかな」
どうせ家にいても特にすることはない。インターハイのことを忘れるためにも音楽はいいかもしれない。
そのまま携帯を操作して、明日の大会について調べた。どうやら当日券もあるんだそうだ。歩いて行ける距離だし、久しぶりに華の姿も見たい。
携帯をスリープ状態にして机に伏せて置く。
窓の外は相変わらずの雨。
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