雨郡華―①
あたしは
幼いころからピアノだけは習っていたので楽譜を読むことができた。そんな理由で吹奏楽部に所属している。担当楽器はアルトサックス。ピアノ以外の経験はなかったので、完全に見た目で決めた。楽器体験で唯一しっかりとした音が出た、というのも決め手の一つだった。
「今日も雨だねぇ」
音楽室で楽器を組み立てていると、同じく隣で準備をしていた
「雨の日だと調子狂うんだよなぁ」
唯はあたしの反応を待つこともなく続ける。
実際、楽器はその環境の気温、湿度、広さなどで鳴り方が大きく変わる。特にサックスやクラリネットなどのリード楽器と呼ばれるものはその傾向が強かった。
でも、あたしはそんなことを実感したことはない。まだ楽器のコンディションに演奏が左右されるほど技術がついていないんだろう。唯は小学生のころからクラリネットを吹いていたらしく、正直なところ先輩よりも上手だった。
あたしはというと、一年生のころにサックスパートの三人だけで出場したアンサンブルコンテストであまりいい成績を残すことができなかった。これは別にあたしがすべて悪かった、というわけではないのだが、数十人で演奏するものと比べると個人の技術が演奏に大きく影響する。
「ほら、サックスもそうでしょぉ?」
唯は時々少し嫌味な言い方をする。でも本人にそんな気はないんだろう。よくあたしに話しかけてくれるが、それはあたしが、唯よりも技術もないし控えめだからなんじゃないかと思っている。人は、自分よりも下だと思っている相手の前だとこういう話し方をするんだ。
あたしは小さく頷いて答えた。
「それじゃ、今日も練習頑張ろうね」
そう言うと唯は音楽室を出て行く。歩く姿はさながらプロの演奏家だった。これから後輩もできるというのに、あたしはいつまでもこんな状態で大丈夫なんだろうか。
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