雨池博―①

 昨晩から降り続いていた雨は、朝にはその勢いを失っていた。私、雨池博あまいけひろしは古びた傘をさして歩いている。

 今の散歩コースに決めてから、もう五年ほど経っている。五年前までは孫や妻と、飼っていた愛犬の散歩に行っていたものだ。妻が亡くなってからもう五年も経つのか。年をとると時間の感覚が曖昧になる。それも、一年ほど前に教員を定年退職してから、加速度的に悪化している気がする。


 そういえば妻は晴れの日の方が好きだったな。たしかに、若者が近所を駆け回り、四季折々の風景を楽しむことができる。

 でも、私は丁度これくらいのにわか雨が好きだ。家に籠っている子供たちや、木々の陰に隠れている鳥や虫たちが、雨が止むのを今か今かと待ちわびている。四季折々の花の香りを、この湿気が運んでくれる。そんなところが好きだった。

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