第2話 決断

「私は、リル・アイ。馴れ馴れしくリルと呼んでもらって構わない。なぜ少年はこんな危険なところに居るんだい?」

リルは白い砂の大地を見渡し困惑しながら訪ねた。

「僕はエルク。何でここに居るのかはわからないんだ。」

リルは困惑の表情を深めたが、エルクは嘘はついていない。それが霞んだ記憶の中でエルクが持っている情報のすべてだった。


リルは少々考えたそぶりを見せるがその思考はため息とともに吐きだされたようだ。諦めたように地べたに座り込み「私の同胞が来るまで少し待とうか」といった。

こういったときに何か話したほうがいいとはわかってはいたが両者ともそんなに器用な方ではない。リルは目をつむり、エルクは先ほどの騒動で体が慣れたのか両の足で地面をつかんでいる。気まずい時間が流れるが解決する手立てはない。

数刻立ってリルが「やっときたか…」と呟き立ち上がった。

辺りに人影は見当たらなかったが。少しの間が開いてリルの目線の先になにかが近づいてくるのがわかった。近づいてきた男は中背でくるくるの髪の毛で目元を覆っていた。バケットハットを被り、リルと同じようなマントを羽織っていた。おっとりとした雰囲気を感じたのは単に彼の足取りが重かっただけかもしれない。

そしてリルは唐突にゆっくりと近づいてきた男の頭を叩いた。


「お前はいつも遅すぎるんだ!私をあまり待たせるんじゃないよ!」

「君が早すぎるんだろう…上の説得に僕がどれだけ苦労したと思ってるの」


仲のよさそうな掛け合いにエルクは疎外感を感じていた。二人のキャッチボールを眺め、ボールが足元に転がってくるのを待っていたがそのボールは急に男に投げつけられた。

「それで、これはなに?」

男は急に真剣な口調に変わりエルクを顎で指し、リルに説明を促した。

「目が覚めたらここに居たんだと。こういうのはお前が適任だろうから、お前を待っていたんだ。」

エルクの持っている情報のすべてがリルを通して男に伝わった。

「黒の瞳に白髪の少年が白に汚染された危険度3のこんな場所に、目が覚めたらねぇ…」


男はエルクを舐めまわすようにエルクのつま先から頭の先まで一通り眺めた後。エルクの瞳と目を合わせた。男の瞳はピンクゴールドで不思議な引力を感じ、目をそらすことができなかった。瞳の収縮が三度行われ、口元の口角が上がり「なるほどねぇ…」と呟いた。

「何かわかったのか??」リルの声が弾んだがすぐに落ちた。

「結論からいうと、何もわからないことが分かったって感じかな。」

リルは落ち込んだ声で「なんだよ」と呟いたが勝手に落ち込まれるエルクの気にもなってほしい。

しかし、そんな空気感とは裏腹に男の声は弾んでいた。

「そんなに落ち込むことじゃないよリル。この子は汚染されているのにも関わらず人間の体系を保っている。この子を連れ帰ったら安寧と怠惰に胡坐をかく馬鹿の考えを変えることができるかもしれないよ。」


「それは、楽しみかもしれないな」

男とリルは性格の悪そうな笑い声をあげながらエルクを置き去りにしている。

「挨拶が遅くなったね。僕はヴァルト・ホーン。親しみを込めてみんなはヴァルと呼んでいる。君は僕たちと一緒に来てくれるかい?」

エルクは戸惑いを隠せなかった

「でも僕は自分のことは何もわからない、二人の迷惑になるかもしれないよ。不安でしょうがないんだ。ここは落ち着くけど二人は怖い。ついて行って本当に大丈夫なのかわからないんだ。」エルクはか細い声で精一杯自分の気持ちを伝えた。


「なるほど、まずは説明からだね。

まず、ここ50年で世界は”白”という病気に汚染されたんだ。”白”に汚染されると無機物有機物問わずに白色に染まり世界のルールから外れる。つまり物体としての時間が止まってしまうんだ。それにほとんどの物質は耐えきれなくなり、砕け散ってしまう。耐えきった例は今のところ一定の物質や人間以外の生物しかおらず世界を徘徊している、君を除いてね。僕は目が少し良くてね、そんな世界で唯一現存しているZODIAという組織で人事をしている。僕が無理を通せば大体の道理は避けていくさ。」

ヴァルクはエルクの目を見ながら丁寧に説明していく。エルクは理解の機微を逃さないという意思を感じ、ヴァルクの真剣さを感じ取った。


ここまで説明したところでリルは待ちきれなかったようだ。

「お前に拒否権はない。白に汚染された体で獣のように世界を徘徊し続けるか私たちと来るか。二つに一つだ」リルは選択を迫るがヴァルクは制止する。


「君が考えるんだよ。この世界で甘え切った人間は組織にはいらない。この先で何かあった時責任を誰かに擦り付けないように、自分のことは自分で決めるんだ。まぁ、人事としてはぜひとも君に一緒に来てほしいんだけどね。」


エルクはリル、ヴァルクの二人の目を交互に見比べ

「ついていきます!」

と強い口調で言葉を放った。エルクの初めての決断に呼応するように二人はうなずき、三人はある目的へと歩を進めていった


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