第2話

「今日転校生来たね、同じ班がんばぁ笑」

あたしの揶揄いに動じず

「ん」

と一言だけ反応する

なんか今日おかしくない?

そう尋ねそうになる言葉を抑える

余計なことを訊くと不機嫌になっちゃうもんね

「正直可愛いって思ってるぅ?」

膝に乗ったあたしは彼を見上げて尋ねる

「んー、静かそ」

彼はそう呟き、あたしに腕を回した

相変わらず何考えてんだかさっぱり分からない

下からママの私を呼ぶ声がする

うるさい

「そこはぁ彼女が1番可愛いでしょー笑」

敢えて戯けて言ってみるも彼の表情は変わらない

あたしは階下を無視して彼に身を預けた


私は頭を巡らせていた

この教師は利用できるかしら

頑なに部活にも委員会にも入らない私に、雑用を押しつけてくる

無気力な生徒には役割を与えよう!生きる意味を見出させなくては!とか本気で思ってそうで怖い

「いやー助かる、キンセンカは枯れちゃったからね、カンナは、」

兄の琴線に触れるものは何だろう、分かんないわ

「君は男子に人気のようだね」

何をどうやったらその思考になるのか教えてほしい

「たまには女子とも話せると良いんだけどね」

私があんな子たちと仲良くできるわけないでしょう

「君が前の学校で教師と起こした事については深く聞かないから、何か相談したい時は、」

「教頭が日本史?」

廊下から集団の声が近づいてくる

「神授業だったらしい」

「羨ま!」

名案が浮かんだ

「担任辞めなくて良かったのにな」

「俺らの方と変わってほしいわww」

傍らの未だ続く長いお話を遮る

「先生、あの、相談が!」


は?

強い引力がかかった瞬間、僕は床に倒れてしまった

なんだか柔らかい物体が僕と床の間にあるみたいだ

「あ、お取り込み中でしたかっ!」

「www」

生徒たちの笑い声の余韻がしんとした教室に残る

「おい、廊下は走るなー!」

僕の声は伝わりそうにない

目の前に繊細な生徒がいる手前、大声を出すのは良くないだろう

生徒の手を引いて身体を起こす

「大丈夫かい?」

おずおずと尋ねてみる

相当ぼんやりとした様子でいる

反省してもらわないと困る

こういう問題行動は指導しなくてはいけない

「大体君もね、気をつけないと、この学校でさえ、」

生徒は聞こえていないのか、すたすたと立ち去っていった

随分素行の悪い生徒だ


彼女はミニトマトが好きだ

弁当に毎回最低でも4つ以上は入っている

「ママがねぇ今日はいっぱい入れてくれたのー!」

俺は一気に頬張る彼女をちらっと盗み見る

幸せそう

不思議だ

「欲しいのー?笑」

彼女がニヤついて俺の目の前で首を傾ける

「いや要らないっていうか全部食ってから話せよ、汚ねぇ」

出かかった物体を押し込んだ

「ん〜!!」

彼女は嬉しそうに俺の手を解く

俺の手には赤い物体が付着している

嫌いだ


季節外れのリンゴを口に運ぶ

腹立たしい

顔だけよ

あの子は中身に何もないわ

それに

こっそりと後方に目を遣る

公衆の面前でイチャつくなんて…!

はしたない

母には申し訳ないが、うさぎちゃんリンゴをフォークで何度も突き刺す

どうしてあの子を選んだのか、理解が追いつかない

見る目が無いのかしら?

段々とフォークを持つ手に怒りがこもっていく

全くふさわしくない

貴女に合う人間はただ1人だけよ

無味のリンゴに蓋をする

不要なら、さっさと処分しましょう

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