赤いもの
纓紫琉璃
第1話
片頭痛がここで来た
重い頭を支えながら尋ねる
「あれ今日も1人?」
その生徒は目も合わせず軽く頷く
「今日はね、色々と書類の申請が必要なんだよ、親御さん呼べない?」
そう言われることを予想していたように首を振っている
教室は空気が悪すぎる
「ちょっと待っててね」
生徒はもう無反応だった
廊下に出て、ふぅと息を吐く
窓を開けて深呼吸する
今日も太陽の自己主張は激しい
ミシンミシン
古い校舎はよく揺れるし、おまけによく鳴る
この足音は教頭に違いない
僕を見かけて近寄ってくる彼に、いつものように弱音を吐いた
「もう勘弁して下さいよー、あの生徒、親と名字が違くて大変っす」
教頭は困った顔で笑った
「君のクラスは偶然にも訳ありな子が多いですね」
優しい彼になら余計なことだって言える
「僕も同じですから」
教頭は淋しく微笑んだ
朝は苦手だ
1人でいると、いくらアラームがあっても起きれない
ガランとした廊下には朝日に照らされた埃が踊っている
俺は今までどう生活してきたか、最近分からなくなっている
座布団に座って手を合わせているとすぐに時間になる
家具が少なくなったせいか線香の匂いがすぐ部屋中に充満する
誰も居なくなった家をそっと出た
決して寂しくはない
これは俺が選んだ道だ
思い出したくもないあの日から、鍵は掛けなくなった
いつか帰ってくるかもしれない
まだ本気で信じている俺はおかしいと思う
彼女に言ったら笑い飛ばされそうだ
それも良い
胃の中の食べ物を探している音がする
今日も弁当を作る時間がなかった
そう彼女に言ったら笑ってお裾分けしてくれるだろう
悪くない
日差しが眩しくて目が暗む
いくら下を向いたって反射して顔に当たってくるのがうざい
目を瞑ったところで瞼を通して光が眼中に入ってくる
足元から伝わる熱が身体中を溶かしてしまいそう
苛つく心を爪先に込めて地面を蹴る
なくなればいいのに
校門の前、阿保な会話の馬鹿デカい声の連中が通り過ぎる
朝から喧しくて鬱陶しい
「3組の担任マジで授業つまんねぇ」
「現代文とかノー勉定期」
消えてほしい
「しんどww」
「そういや、あの殺人犯、ここ出身らしいんよ!」
「でも可愛いんだろ?」
口々に次から次へと悪意のない言葉が放たれる
「被害者じゃね?」
「えー!俺も殺されてぇ!」
「黙れ殺す」
思わず発した声は男子の喧騒に掻き消されて、空に消えて行った
操り人形のようだ
一目見てそう感じた
にしても既視感なんだよな、この顔
記憶を手繰り寄せるも、頭からは簡単に出てこない
思い出には奥深い倉庫に眠らせ埃を被せている
デカい目と対照的に小さな顔
前髪はやや長め
それに、か細い声
うん
さっきから何言ってんだか分かんない
「この時期に転校とか事案じゃんw」
「なんかあるんじゃね?」
後ろのバカ男子が全員に聞こえる声で煽ってる
確かに割と不可解だ
夏に、それも地域ではそこそこ有名なこの自称進に転校する話は、聞いたことがない
転校生は聞こえていないのか自己紹介を続ける
あいつといえばその声に耳を澄ましている
そういうムカつくとこはずっと変わってないよな
後ろの席からいくら視線を送ってもあいつが振り向かない限り、うちらは交わらない
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