第六五話 力を欲する者たち(四)

 若いアルヴが言いたかった事は、直ぐにオレウスも理解した。

 激戦、と言えばあまりにも高尚な言葉であった。内実はそれぞれが好き勝手に戦っているだけなのだ。簡単に言うとコアの掠奪戦と言えば良いだろう。強い者が弱い者から殺して奪い強化する。弱い者は、策略や欺瞞を駆使して、他人の犠牲の上で利益を得ようと画策している。

 

 そこには敬意や尊厳も存在しない。

 それは北部地域だけではなく、世界中に広がり始めていた。


 そんな環境に、醜さを感じオレウスは吐き気を催した。

 この戦いに何の意味があるのだと。


 秩序を回復するはずの連合軍が、コアを奪う為に闇属性だからと言って、力を持たない住人を虐殺しているのではないか。それに対抗する為に、闇の戦士たちが抵抗を続けている。

 ここに来て間もないが、オレウスはそう感じていた。


 最初は、こんな所へ遣わした師であるリュカ・ソールを恨んだものだ。しかし、次第にここでやるべき事がわかって気がした。先が見えない殺し合いをやめさせないといけない。リュカ・ソールが、そう想っていたのかは分からないが、オレウスは決意した。

 と、強い決心をしたが、どうすれば良いかまでは浮かばなかった。ここで銀髪のアルヴとの出会いが、オレウスの新しい道を開く事となる。


 オレウスがこの拠点に辿り着く少し前、銀髪のアルヴは、小隊規模の仲間たちと共にやって来た。銀髪のアルヴはシー氏族であるが、『神々の大戦』で滅び去ったとされている。その生き残りがいたと注目を集めていた。シー氏族は、アルヴの中でも強力な上位種と伝わっていたので、戦力としての期待度は高かった。その期待は、楽にコアのお裾分けに預かれると想っていたからだ。だが、彼女たちの戦い方は、コアを破壊する。破壊されたコアは源素に変換され、世界へ戻ってしまう。そうすると力を得る事ができないのだ。

 連合軍の兵士たちの中で、期待から失望へ変わるのは、そう時間はかからなかった。利益が得られないと分かれば、対応に渋くなるのは人情というものだろうか。彼女たちの小隊は孤立していった。その様な状況の時に、オレウスはやって来たのだ。


 オレウスがこの拠点に着いた時には、彼女の小隊は任務で出払っていたのだが、十日が過ぎた頃に帰還して来た。

 もちろん好奇心旺盛なオレウスが放っておく事はなく、すぐさま接触を図ろうとするのは必然だろう。こうして彼女たちと出会い親交を深めていくと、彼女たちが孤立しているのが分かった。その事でこの拠点の兵士たちが、自己の強化にしか興味がない事を知る。動乱の収束なぞ二の次なのだ。それどころか、もっと続けば良いと思っている節がある。


 

 彼女と仲間たちは、『白銀の騎士団アルゲントゥム・エクィテス』と呼ばれていた。白銀と名が付いているのは、白銀のアルヴである彼女を象徴しているからだ。団員は、種族属性性別関係無く構成している。あろうことか、敵である闇属性の者までいるのだ。それもあり、連合軍の兵士たちは避けている。それでも付き合わずにいられないのは、彼女たちの実力が抜き出ているからだろう。

 

 夜空にひときわ輝く孤高の星。

 そして、それを取り巻く無数の星屑たち。

 地上では忙しなく物事が変わっていく。

 夜空を見上げれば、いつの世も変わらず瞬く星々たち。

 

 それは、良きにしろ悪きにしろ、孤高に生きる彼女たちへの比喩だ。

 

 白銀の騎士は、忖度をしない。

 自分たちの進むべき道を辿るだけ。

 それゆえに、時には衝突が起き、一所ひとところに長居できなかった。この拠点でもそうだった。


 劣勢であった時は歓迎されていたが、戦線が優位に立ち始めると、白銀の騎士団が行うコア破壊を次第に煙たがる様になっていた。拠点の兵士にとって利益が得られないからだ。


『この戦線では、問題が無くなった。他の地域が救援を求めている。援軍へ向かって欲しい』


 ある日、連合軍の拠点司令部は白銀の騎士団へ要請をする。

 話し合いの結果、白銀の騎士団は他の戦線へ異動する事となる。各部隊からの要望に応えた司令部が、体裁良く追い出す形となったのだ。


 オレウスは、白銀の騎士団と行く事にした。

 拠点の兵士たちからは学ぶことが無かった。短い期間だが戦場を共にした白銀のアルヴの戦い方に興味を惹きつけられていた。

 彼女たちは、闇雲に敵を屠っているわけではない。何か目的を持って、敵を倒している。敵の司令官を倒せる好機がありながら見逃したり、ただの兵士であっても必要に追い詰め仕留めていた。その判断は、白銀のアルヴがしている様だが、連絡を取り合っている様には見えなかった。それどころか、戦場を広く展開した状態でも一つの意思に基づき行動している様だ。だからこそ圧倒的な戦績を誇っている。その秘密に興味を覚え帯同する事にしたのだ。

 その選択は、オレウスの成長に多大な貢献する事となった。


『理力を無理に増やしても意味はありません。どの効果的に使えるかが重要です。上手く制御できる様になってください』


 帯同を許されたオレウスは、彼女から課題を出された。その期待にオレウスは応えた。

 彼の持つ《烈日の光芒》は、神器と言われる強力な武器である為、理力を際限なく爆食いするのだ。オレウスの理力は直ぐに尽きてしまい、長く戦うことができなかった。しかし、細かく理力を操作し制御をする事で、少ない理力によって武器の潜在能力を引き出す事ができる様になった。


 一撃必殺。

 それからのオレウスは、白銀の騎士と同じ様にコアを絞って攻撃する。理力や源素の動きを感知する事で、視界が届かない場所からでも狙撃し、獲物を屠る事ができる様になっていた。

 さらに、元々使えていた光属性の技も磨きがかかり、探索者としての能力を向上させた。

 

 オレウスは知らされていないが、全てリュカ・ソールの思惑通りとなっていた。

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