第六四話 力を欲する者たち(三)
オレウスは、ルクスに許しを得ると直ぐさま旅の準備に取り掛かった。だが、何処へ行けば良いのだろうか? 彼は、故郷とヘリクリサムしか知らず、外の世界は物語に記されている程度だ。それは、現実とはかけ離れていると分かるくらいには成長している。とりあえず、風の吹くまま気の向くまま旅をするのも楽しいだろうと想っていた。地図を眺めながらワクワクしていると、そこへリュカ・ソールが戻ってきた。
リュカ・ソールとて、世間知らずな弟子のオレウスを野放しにするつもりは無い。
いくら才能溢れる者であっても、何も知らずに生き残れるほど世界は甘く無いとは分かっている。辺境での暮らしである程度経験があるとはいえ、光の王国は比較的安全な地域なのだ。北方動乱の鎮圧部隊へ補給物資を送り届ける輸送隊に、オレウスを配属させたのも強力な護衛隊がいるからだ。そして、徐々に経験を積ませていくつもりだった。
それまで何処へ行こうかと上機嫌だったオレウスは、リュカ・ソールの命令に落胆した。
結果的には、それで良かったかもしれない。
北方動乱は、凄惨の一言だった。
北方領域は、闇の王の支配下にあった地域だ。そこでかつての眷属たちが、領域を奪還せんとして騒乱を起こしたのだ。それを受けて各王や種族の長は、大戦に発展しないように早期解決を目指して軍団を派兵した。
しかし、連合軍とは名ばかりで、実際には各王国軍や各種族別で戦いに挑んでいた。確かに初めはそれで良かったかもしれないが、いつの間にか騒乱を起こしていた者たちは纏まり、軍として形作っていた。
反乱軍は、強大な軍団が相手だと一戦交えて、すぐさま敗走するのを繰り返した。次第に、連合軍は反乱軍を舐めてかかる様になり、元々纏りの無い連合軍は、個別に戦う様になったのだ。そんな隙を反乱軍は黙って観ているはずがない。それから連合軍の小部隊を狙い各個撃破していた。
半年をかけて、オレウスは輸送部隊と共に北部戦線の拠点へ到達した。これでも日数は早い方だ。ただでさえ北部戦線との距離があり、途中には幾つもの真王や種族の領地がある。その度に一々検閲を受けねばならない。
友邦でありながら
土属性の者は領土欲が強く、自分の支配領域を常々増やしたいと考えている。火や風が混乱を巻き起こし、土がそれに便乗してくる。その様な事が各地で起こっていた。そしてそれに輪を掛けているのが、それぞれの真王たちの態度だ。
彼らの王たちは、自らの配下である眷属たちを止めるどころか、自由にさせていた。流石に王自ら騒乱に参加する事は無いが、王のその無関心な態度は騒乱者を助長させ、事を大きくしていた。
もちろんその騒ぎを好まない王もいる。
水の王アクアは、閑静で豊かな清流や澄明な湖を好んでいたので、人里に姿を現す事は滅多になかった。だから、今現在どこに居るのか知る者はいなかった。
残るは命属性だが、アーカディアは豊かな土地である為、わざわざ好んで領土を出ずとも大抵は自領で事足りた。そもそも真王である命の王アニマモルスを筆頭に、領民たちは穏やかな性格をしているので、戦闘面では役に立たない事が多々あった。この弱肉強食のことわりで動いている世界の中では、特殊な地域であるだろう。
そんな状況である為、争いを鎮静化させ秩序を取り戻す役目を担うのは、
各地に軍団を派遣しているのは悪いことばかりではない。利点としては、厄介な検閲を逃れる事が出来る。おかけでオレウスは、大抵一年はかかる旅路を半年で済ませた。それでももっと早く辿り着く事も出来たが、途中で騒乱者の掃討作戦に参加したり、ヒト族が移る住む前のノックスで観光をしたりと寄り道をしていた。輸送隊の隊長に急かさらねば、まだ辿り着いていなかったかもしれない。
最前線の拠点に着くと、オレウスの期待していた様な華やかさは微塵もなかった。耳を塞ぎたくなる様な悲鳴や死体から漂う鼻が曲がる強烈な腐臭に迎えられた。
オレウスと同じ年頃のアルヴはいないが、少し歳上の若いアルヴはいた。しかし、総じて何の感情を持たない死んだ目をしながら、かつては仲間だった死体を大きく掘った穴に投げ入れていた。アルヴの埋葬としては考えられない方法だった。
アルヴの埋葬は、各氏族で多少の違いはあるものの死者の生前に敬意を払い、王に仕える神祇職の者が丁寧に儀式を行う。不死者にならない様、丁寧にコアを取り出して死者の後継者へコアを渡す。後継者は、肉親とは限らないが、死者が生前成し遂げた成果を讃えた後、コアを取り込み同化する。こうして、後継者となったアルヴは強化され、死者は後継者と共に生きていくと考えられている。だからこそ、家族や師弟関係を大事にしているのだ。そして、役目を終えた肉体は、世界へ帰り同化する為土葬されるであった。
常識破りのオレウスでさえ、この光景を受け入れられず、怒りを持って彼に掴み掛かったのだ。だが、彼は胸倉を掴んでいたオレウスの手を優しく外して答えた。
『お前は新兵だな? 私も初めはそうだった。だが、一カ月もここに居れば分かるよ』
彼は、一瞬悲しそうな感情を表に出し、そう伝えるとまた感情を消した表情で作業に戻っていった。
「ここでは、何が起こっているんだ……」
オレウスは、呆然としながら拠点を見回した。
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