第三ニ話 不信(下)
「では、今年は新兵たちは、粒ぞろいだそうだし、デンス大隊長、君の意見も聞かせてほしい」
部屋に入った当初から機嫌が悪そうだったデンスだが、さらに眉間に皺を寄せている。
(こうゆう会議とか、嫌いそうだもんなぁ)
新兵であるカイルは、当然、初めて会議に出席したので、普段と違う幹部たちの姿を見れてとても新鮮だった。
「才能という点だとアウレアがピカイチだな。どんな戦闘技術もそつなくこなす。もう少し体格が良ければ、稀代の英雄にも匹敵するだろう。そこのカイルも含め、他の連中も訓練では中々のものだ」
「ほう、辛口の君がそこまで言うのであれば、相当なもんだな」
ヴェテリウスは、感心していたが、デンスは肩をすくめ返答する。
「司令官、あんたも知っているように、訓練と実戦は違う。才能豊かで将来を期待されていた連中が、初陣で何人死んでいったか。まずは初戦で生き残ること、訓練の評価なんてクソだ。生き残ること、それが評価だ」
デンスは、どこか寂しそうに天井を見上げる。ヴェテリウスも同じ想いに至ったのだろう、一つ頷くと話を変える。
「それで、新型銃については、どうだい?」
「そりゃ、旧型に比べれば、装填の速さも威力の強さも増し増しだが、弾薬も時間も足りねぇ。完熟するほどの訓練ができないからな、実戦ではどうだろうな」
訓練を行う前から分かっていたことだが、デンスは射撃訓練を見ていて十発程度では、お話にもならないと思っていた。
発砲時の反動が今までよりはるかに大きく、部下たちはかなり戸惑っていた。射撃をし易くするために、少し銃の形状を改造した方が良いだろう。
本来は、もっと完成度を上げてから実用化すべきだった。それが、デンスの本音である。
「コロンの巡検士隊は、戦果を挙げてるぞ?」
「ありゃ〜、あんまりあてにならねぇよ。ほとんど爆裂弾で倒してるし、何より運が良かった。銃の性能うんぬんっていう戦闘じゃねぇな」
「確かに、報告書をしっかり読んでいればそうだろうね。しかし、戦士団には反撃への希望が欲しいんだよ。外の拠点がコロン以外壊滅して以来ね」
ヴェテリウスの答えに、また政治かよとデンスは思った。中央の連中が、また懲りずに何やら動き出したんだろう。戦士団の反対を押し切って、コロン以外の拠点を増やしていったのも奴らだ。
デンスは眉間に皺を寄せて歯ぎしりをする。
「だいたい、銃が効くかどうかは、そっちの姉ちゃんに聞いた方が、詳しいんじゃねぇか?」
デンスが、ずっと黙っているレナ・シーへ睨むように視線を向ける。
「ふむ、いかがですかなレナ・シー殿」
少しためらったが、ヴェテリウスはレナ・シーに話を向ける。
「銃というのは分かりませんが、道具に頼りすぎるというのはどうかと思います。私に言えることはそれだけです」
そう答えて、それ以上は口を閉ざしてしまった。
道具は大切だが、確かにその武器をあてにして作戦を立ててしまったら、もしその武器が効かない場合、悲惨なことになるだろう、カイルはそんなことを思った。
「おいおい、それだけかよ! あんたらはいつもそれだ! 知っていることをいつも黙ってる。それで、同盟関係って言えんのかよ!」
今まで黙っていたトーリスが、激しく机を叩いて噛みついた。妖精族とは、色々な仕事を共同で進めているが、大抵はヒト族が先行し、問題が出た後から妖精族は参加する。その対処の仕方を見ると、そうなることが始めっから分かっていたように思えるのだ。
教育であれば、そのような教え方もあるから、それでも良いだろう。しかし、軍事面では生命がかかっている。だからこそ、妖精族の対処の仕方が気に入らないのだ。
「あんた、氷雨の魔女だろう! 今度は、どんな災いを運んできた!」
何も答えず、双眸を閉じたままの顔には、何も表情を浮かべない。そんなレナ・シーに苛立ったのか、トーリスはさらに暴言を吐いてしまった。
小隊長たちも騒めき、ゴブリンのアルドルが怒りの表情で一歩前に出るが、レナ・シーが片手を挙げてそれを止める。
「おい! トーリス、言い過ぎだ!」
「あーー、一旦休憩にしよう」
デンスが、怒鳴ってトーリスを黙らせ、ヴェテリウスは深いため息をついて、頭を横に振りながら、騒然とした会議を止めた。
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