第ニ六話 まどろみからの警告(下)
カイルは、あたりを見回す。
何か虹色の薄い膜を通して見ている様だ誰も見えていないのだろうか。虹色の膜は、濃くなったり薄くなったりして、視界がぼやけている。それでも誰が何をやっているか分かる。
デンス、腕を組んで目をつぶって、聴き入っている様に見える。
(相変わらず見せかけがうまい。あれは寝てるな。絶対)
その隣では、フィオラさんが分厚い本に、何やら書いている。
(相変わらず、まめだなぁ)
その背後には、トーリスとセリビウスが座っている。なんか眠そうにしている。反対側の壁際には、各小隊長が座っていた。彼らも似たり寄ったりだった。
(そんなんで良いの、幹部たち!)
そして、大隊を見回すと、金色に輝いている存在がいた。だが、一定ではない。緑色になったり、濃い青や水色にもなったりする。
(何だろう)
カイルは、目を凝らした。それはよく知っている者だった。
(アウレア)
あたりを見回して見ても誰も輝きを発していない。再び彼女を見ると変わらず、不思議な輝きを発していた。彼女は、カイルが見ている事に気付き手を振ってくるが、直ぐに周りの女性たちに止められる。
ふと、カイルは気付いた。あたりは静かだった。隣では、グティエリスが説明を行なっているはずだ。グティエリスの方を向くと、彼は身振り手振りを交えて、話しをしていた。が、声が聞こえない。いや、何かが聞こえる。
(呼んでいるの)
『………』
(えっ、何。聞こえないよ)
『………』
カイルは、もっとよく聴こうと、耳を傾ける。
『………目覚めなさい』
(何だって)
『………危険が……迫って……』
(分からない。もっと、はっきり言ってよ)
『……私の……可愛い息子よ』
突然、靄がとれ、音が戻る。
カイルは、あたりを見回して見るが、グティエリスの説明の声だけが聞こえる。アウレアを見るが、不思議な光は消えていた。いつも通り……いや、なぜか、ぐったりしている。グティエリスの話している内容を聞くと、予定にはなかった製造の物語を語っていた。
デンスは、深々と椅子に座り、背もたれを枕がわりにして、いびきをかいて寝ていた。他の幹部たちも机に突伏していた。格納庫の入口付近は、かなり人数が減っている。ただ一人、フィオラだけが、一生懸命に本に書いていた。
さすがに止めないと、午後の演習に影響が出るとカイルは思った。
「グティさん、グティさん、もう、そこら辺でお願いします」
カイルは、グティエリスの袖を引っ張って止めた。
「何かな、カイル君」
まるで皆んなの生気を吸ったかのように艶やかな顔色をし、満面の笑みで応える。
(こ、この人、実はインキュバスなんじゃないか)
インキュバスは、他種族の生気を吸い取る悪魔と伝えられている。ほんとに、いるのかどうかは分からないが、グティエリスが話出すと、そうとしか思えない様だった。ちなみに、女性型は、サキュバスといった。
「あっ、こんな時間ですね。これからが、いいところなのですが、名残惜しいです。またの機会にいたしましょう。最後に、何か質問等ありますでしょうか」
懐から何かの装置を取り出して確認をすると、本当に残念そうな表情で皆んなに話しかけた。大隊の面々は、顔色を青くしながら総じて首を横に振る。
ただ一人を除いて。
「はい! むぐぅっ」
フィオラが、手を挙げ質問をしようとしたが、後ろに座っていたセルビウスがいち早く気付き、口を抑え拘束する。
「グティエリス殿! 大変興味深いお話、ありがとうございました。全員、起立!」
トーリスが立ち上がり、皆をうながした。皆も瞬時に悟り立ち上がった。
「グティエリス殿に敬礼! 解散!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
トーリスとセルビウスが、暴れるフィオラを抱えて出ていった。隊の他の面々も瞬く間に、格納庫から立ち去っていた。華麗なる撤退行動だった。
「うん、グゥあ。ん、なんだ、終わったのか」
ただ一人、置いて行かれたデンスが目を覚まして、口元を拭ってから伸びをしていた。
どうやら、今日もいつも通りだ。
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