第ニ七話 新型銃(上)
「え〜、やだよ。やりたくない!」
遅くなった昼食を挟んで、午後からは、いよいよ新型銃を使った演習が始まる。午前の件もあったので、いろいろと理由を作り、グティエリスには退場を願った。
だが、ここで問題が発生した。銃の取り扱いを説明できる者が、他にいなかったからだ。
そこで、緊急に大隊長のデンス、副長のフィオラ、中隊長のトーリスとセルビウス、そして、なぜかカイルの五人が集まった。
「お前は昨日の夜、直接習ってたんだろう。ガガルゴのおやっさんが言っていたぞ!」
「みんなだって、朝の講習で聴いていたじゃないか」
「それがねぇ……私は楽しかったけど、取り扱いについては、これからだったの」
右手を頬に当て、フィオラは残念そうに答えた。。
「お前、隣にいて聴いて無かったのか」
「あ、いや、その……」
デンスがカイルを追求したが、その時の記憶はカイルには無かった。
「デンスも人のこと、言えないでしょ。爆睡していたんだし」
「ウッ、しかし、誰かが教えなきゃならんだろう。実際、知っているのはお前だけだ。それとも、グティエリスに登場を願うか?」
デンスが振り向くと、トーリスとセルビウスは、青い顔をして首を横に振る。
「デンス! それはだめだ。暴動が起きるぞ!」
「そうそう、あんな静かなメシの時間、初めてだった」
「ああ、しかもどいつもこいつも目が虚ろだったしな」
トーリスとセルビウスは、必死に止めようとする。
「頼む! カイル! アイツらの為に人肌脱いでくれ!」
さらに、カイルを拝むように頼み込んでくる。
「あれだぞ、命令してもいいんだからな」
デンスも便乗し、畳み掛けてきた。
「ああーもう、分かったよ! やればいいんでしょ、やれば!」
「さすがは、カイルだ。じゃ〜後はよろしく〜〜」
問題が解決できて安心したのか、三人はカイルに丸投げして、そのまま訓練所へ立ち去ってしまった。
「ごめんなさいね。しょうもない上官たちばかりで」
カイルが、呆然と三人の後ろ姿を見送っていると、フィオラが肩を叩いて慰めた。どうやらいつも通りに戻ったカイルを見て、フィオラは密かに安心していたのだ。
「私も手伝うから、そろそろ行きましょう」
「ありがとう、フィオラさん」
三人に続き、二人も訓練場へ向かった。
◆
「基本の構えは、旧型と変わらないんだ。グリップを握って人差し指で引き金を引いて、弾を発射させる、原理は同じなんだよね。注目は、この弾だよ」
カイルは、弾丸を取り出す。
「今までは、先込め銃の名前の通り、銃身先から火薬と弾を個別にを入れて、火縄で火を着けて弾を発射したけど、ここまではみんなもよく知っているよね」
「ああ、それで装填に時間がかかる。だから実際使用出来るのは、身を守り易い防衛戦闘くらいだな」
隊員の一人が補足して答えた。他の面々も同様に頷いている。いつものおちゃらけた雰囲気は消え去り、みんな真剣な表情で聴いている。
戦闘に役に立つことであれば、相手が生産職であろうが、経験の少ない新兵の案であっても真剣に話を聴き、取り入れるのは、この隊の特徴でもあった。
戦士たちは特権を持っているため、傲慢になり易いが、カインライン大隊はその悪癖が少なく、生産職からの評価も高い。また、上官に自分の話をよく聴いてもらえることは、意欲を上げる効果にかなり貢献している。デンスやフィオラの人柄が、自然と他の幹部たちにも影響を与えているのだろう。
「この弾は、装填を迅速にしてくれる。金属の部分が薬莢といって、ここに火薬が入っていて、先端の弾頭が火薬を密閉してくれる。薬莢のお尻の部分に点火薬が入っていて、それに衝撃を与えると中の火薬が爆発して、弾頭が飛び出る仕組みなんだ。火薬も新型で湿気に強く、威力も強化されているそうだよ。だから、雨でも気にせずに使用出来るんだ」
ここで、どよめきが起きる。隊の面々は、近くの者と話しはじめ、新しい戦術を語る気の早い者までいる。それだけ衝撃的な事であった。
「既に戦果も挙げている。先行で拠点コロンに配備されているが、そこの巡検士隊が、狼どもを二十頭仕留めている。損害は無しだ。いや、あったか、隊長の懐がな。酒場で相当むしり取られたらしいぞ」
デンスがさらに煽ると、歓声やら笑い声が入り乱れる。ウチらの隊長たちも、懐あっためとけよっといった野次も飛ぶ。
「じゃ〜次に、銃の取り扱い方をやるね」
カイルが、宣言すると、すぐに静けさを取り戻した。
カイルは、なかなかの教え上手であった。
多くの者たちから教わっているのが大きいのだろう。教わる人によって理解度が変わるのは、何故なんだろうか疑問に思い、それもカイルには興味の対象となった。
教え方の問題だけではないのだろう。自分の理解力も研究して、得意不得意を自己分析していた。
その成果が、この様な形で現れたのかも知れない。
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