第十四話 理力
「そういえば……、格上……アンタたちはあの場にいなかったのに、なぜ知っているんです」
そしてデンスは、ガガルゴの方を向き、さらに質問を続けた。
「それに、俺の事を危険と言った」
ガガルゴは、お茶を一口啜ると眉間に皺を寄せ、渋い顔をする。質問に対してなのか、お茶の味に対してなのか分からないが、そんな表情をしていた。
「アスクラよ。何じゃこれは! ドヴェルグじゃ、こんなのお茶とは言わん! 酒は無いのか!」
「そんなもの、ある訳ないでしょう! ここを何処だと思っているんですか! 診療所ですよ!」
「何を言っておる! 酒はドヴェルグにとっては燃料じゃ!
アスクラは、一つため息をつくと病室を出ていき、しばらくすると赤い液体の入った瓶を一本と二つのグラスを持ってきた。
そして、グラスに注ぎ、一つをガガルゴに手渡した。
「アルヴの酒か。もっと強い、火酒がよかったんじゃが、こんなところで我慢するか」
文句を言いながらも口調とは裏腹にその表情は嬉しそうで、ガガルゴは美味しそうに、チビチビと味わいながら飲み始めた。
アスクラも自分の前にグラスを置き、少量だが酒を注ぎ始めると、その仕草をじっと見ているデンスに気がついた。
「デンス、貴方はダメですよ。まだ、体調が万全ではないのですから。その薬草茶を飲んでください」
「いや、そんなに物欲しそうにしていたか? こんな時間から先生も飲み始めるとは思わなかったから、単純に驚いていただけだよ」
「アルヴはドヴェルグみたいに酩酊するまで飲みませんから、きちんと節度を保ち、嗜む程度です」
「溺れるほど飲んで何が悪い! 浴びるほど飲まれれば酒も本望じゃろが!」
「いいえ! 貴方たちには際限というものがない! あればあるだけ飲んでしまうでしょう。美味いも不味いも関係なく!」
「……!」
「……!」
……………。
「……そろそろ本題に入って欲しいんだが」
このままほっといたら永遠と口喧嘩は続きそうだったので、デンスはため息混じりに仲裁に入る。聞きたいことが聞けず、前になかなか進まないので、ひょっとして、この二人はわざとやっているのではないかと勘繰りはじめた。
「ゴホンッ、失礼しました」
「酒の飲み方については後でやるとして、どうして格上と判断したかじゃったか?」
ガガルゴは、髭を撫でながら視線を天井に向ける。どう説明したら分かりやすいか考えているようだった。
「理力を持つものは、まず身体を強化する事ができる。理力の強さで変わるが、本来その者が持つ、肉体の能力を数倍から数十倍に引き上げることができるんじゃ。もし、
「身体強化は、下級の存在でも無意識に使うことができます。それだけで、強さが変わりますから」
「ふむふむ、でもさ、それは誰でも知ってるけど」
ガガルゴが、基本的な事を説明し、アスクラが補足した。しかし、その話は、戦士たちには常識であり、誰もが知っている事をなぜ話すのか疑問に思い、デンスは首を傾げた。
「ええい、急かすな! ここからが本番じゃ! 食堂へ向かう時、理力の発動を感じたんじゃ」
「ええ、私もすぐに分かりました。おかしなことに、理力が使える者は、この拠点には私たち二人だけのはずでしたし、狼が侵入したのかと思いました」
「で、急いで駆けつけた時には、主は倒され、あの小僧から理力の残滓を感じたのじゃ」
「じゃあ、アイツは理力が使えると?」
そんな能力を使う、卑劣なフレデリックスに対して、デンスは歯ぎしりをする。
「それはあり得ません。理力を使うには、源素を吸収し、理力に変換するコアが必要です。コアを持たないヒト族は使うことはできない!」
アスクラは、頭を横に激しく振り、強く否定した。
「そうじゃな、ヒト族は源素への耐性がない。濃度が高い源素にさらされると直ぐに死んでしまうのじゃ」
「私がヒト族と初めて交流を持った時、あなた方の祖先の寿命は三十歳くらいでした。貴方たちのの寿命が短いのは、世界に源素が満たされているから、そこまでは分かっています」
「それは、おかしくないか。今は、四十歳を超えている者もいるぞ。五十歳を迎えた者の話は聞かないが……」
「そこが、不思議なところです。実は、四十歳を超えている者は、引退した戦士たちが多いのです。狼との戦いで、理力に触れることも多いにもかかわらず。私は、貴方たちが源素に対して、耐性を備えてきたのかと推測しています」
倒した狼や怪物たちからは、必ずコアを回収することを言いつかっている。
それは、妖精族に売れるだけではなく、そのまま放置すると、いずれコアが力を持ち、死んだものを蘇らせ、不死者にすると言われているからだ。
その時、コアに触れれば、同時に理力や源素にも触れることとなる。
「もしかしたら、戦士になって耐性を持ったのではなく、耐性を持った者が戦士になっているのかもしれない。だが、アイツが理力にしろ、身体強化にしろ使えるのとどう関係がある?」
デンスは、聴けば聴くほど疑問が浮かんでくる。この二人は、間違いなく何かを隠している。あまりにも歯切れが悪すぎだ。
「そこまでは、分かりません。ただ……」
アスクラは美しい顔を歪ませ、どう言おうか言葉が続かず、口籠もってしまった。
「ああ、ノックスでは昔からヒト族に、理力を使えるようにする実験を繰り返しておる」
物凄く嫌そうな顔で、ガガルゴは断言した。
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