第二三話 闇の囁き(上)
扉が閉じられるとドタドタと走り去る足音が聞こえた。
カイルとグティエリスは、顔を見合わせる。どうやらガガルゴは、急いで司令官の所へ向かったようだった。
「そんなに、急がないといけなかったのかな」
「長話で申し訳ない事をしてしまった。目録さえ渡せれば良かったのだが」
「グティエリスさんの報告は重要だったと思うよ。対処は早い方が良いと思うけど、でも、今直ぐ、どうこうできる問題じゃないから、走って行くほどでもないけど。あっ、ひょっとして司令官との約束の時間があったのかな」
「親方は、私と会うと何時も慌ただしいんだ。たまには、世間話など取り留めがない話もしたいのだが、何時も忙しそうで話す機会が無い」
グティエリスは、残念そうに肩を落とす。
そんなに忙しそうかなぁとカイルは思って首を捻る。カイルが会う時は、大概、暇そうに酒を飲んでるか、細工物を作っている。たまに鍛冶仕事をしているが、あれも趣味なのではないかと思っていた。
(ひょっとして、グティさんのこと、苦手なのかな。さっきみたく、嫌な仕事を押し付けられるから)
「では、カイル君。せっかくだから、私の馬車に行こう。君が興味を持ちそうな物が、色々あると思うよ」
ガガルゴの態度を気にしていたが、グティエリスに呼びかけられて、頭の中からすっかり抜け落ちてしまった。グティエリスの馬車は、第一大型炉の入口にある積載所にあるとのことだったので、二人は積載所へ向かった。
◆
積載所では、まだ多くのアウジリアスが働いていた。彼らの仕事ぶりは手際が良く、荷馬車に積んであった箱を積載所の決められた場所へ運び、次々に積み重ねていく。
それを可能にしていたのは、レールが天井に格子状に敷かれ、それに取り付けられている滑車と蒸気機関で駆動させているウィンチだ。
ロープを滑車に通して荷物に結び、そのロープをウィンチで巻き取り荷物を浮かせる。そして滑車を移動する事で、宙に浮いた荷物を移動させていた。これによって、非力なヒト族であっても容易に重い荷物を運ぶことができる。
今はまだ初期的だが、昇降機も実用化しているため、今後、より便利な機材が生まれてくるだろう。
「うぉ〜、すごいすごい! あんなに重そうな荷物が軽々と移動してるよ!」
カイルは、この仕組みを目の当たりにして、子供のみたいに、はしゃいでしまった。結構頻繁にここに来ているが、本格的な倉庫整理を見るのは初めてであった。
「よう、カイル。また来たな」
顔馴染みのアウジリアスたちが、声をかけてくる。その中の一人、ミルスにカイルは尋ねた。
「あれ、すごいね。あんな簡単に荷物が運べるんだ。あっ、あっちのは何?」
「ああ、あれは台車だ。板に車輪をつけた、人が押す小型の馬車みたいな物だな。坑道内でも多くの荷物を運べる様に開発したんだ。でもな、知っての通り坑道内は、掘削した当時のままボコボコだ。使える場所が限定されるのが難点だな」
「じゃ〜、床が平らになればいいんだよね。簡単に磨いたり、削ったりできる道具は無いの? 泥を塗り込んじゃうとか。あっ、ダメか。使っているうちに、埃が舞って空気を汚すから」
カイルは、いい事を思い付いたと思ったが、その後を考えると親方にどやされる未来が見えて、頭をかいた。
「む、いや、あの資材を使えば……、その案、使えるかも。ちょっと試してみるわ、ありがとうカイル」
そう言って、ミルスはカイルの肩を叩き、謝意を伝える。
「そういえば、カイル。なんでアイツと一緒なんだ? 知り合いか」
顎をしゃくって指し示す。その先には、他と違った箱型の馬車へ向かっているグティエリスがいた。
「うん、グティさんが新型銃や他にも面白い物を見せてくれるって」
カイルがそう伝えると、ミルスは急に青ざめた。
「あ、いや、うん、まぁ、カイルなら大丈夫か。いやな、アイツの説明は、俺たちには難しくてな…頑張ってくれ」
ミルスは、そう言うと、カイルの肩を二回叩き、そそくさと去っていく。まるで逃げるように。
「えーと、そんなに難しいのかな。うん、がんばろ!」
カイルは、不安に思い頭を傾けたが、気合を入れてグティエリスの馬車へ向かった。
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