第六話 南北を繋ぐ橋
大陸南北を繋ぐトンネルのコートワール帝国側出入り口二つは、互いに一キロの間隔をおくことになりました。あまり近すぎると永久結界の強度を計算し直す必要があり、相当複雑になるのだそうです。
また、予定通り地下四メートルの吸気スペースを確保するため、ダロワ殿が横たわれるようにおよそ百五十メートルに渡って溝が掘られました。最初はそこからブレスを撃つと同時に結界を張り、中に入ってまたブレスと結界、という繰り返しで山脈に穴を開けていくのです。
なお、トンネルは当面ワイバーンのみの往来となります。人や馬車が通るには風除けが必要ですが、その設置に時間を要するのと、休憩所や休息所の設備が整っていないからです。
現状ワイバーンが運べる荷の量はそれほど多くはありませんが、スタート段階では大して多くもないでしょうし、むしろ騎兵の練兵になるとのことでした。
話を聞きつけたベッケンハイム帝国とモートハム聖教皇国から使者が訪れ、トンネルと内部施設利用に関する協議も行われました。
二国とも自国のワイバーンを輸送に使いたいと申しておりましたが、父上さまは他国のワイバーンが我が国の上空を飛行する許可を与えませんでした。
大変に不満そうではありましたが、我が国がまだ公国だった時代に海の利権を欠片も渡さなかったのは彼らの方です。自業自得というものでしょう。
そして厳戒態勢が敷かれる中、ダロワ殿が張った砲身のような円筒形の結界の中を、一発目のブレスが駆け抜けます。衝撃も音響も結界で防がれておりますが、それでも微かな震動が感じられました。
「これで十キロほどですか?」
『うむ。ただ撃ち抜くだけならもっと先まで行けるが、大きさを一定に保つにはこれが限界だ』
私の姿は彼同様に結界で隠されて、その傍らに寄り添っています。結界もブレスも不可視ですから、周囲を警備している兵士たちの目には、いきなり麓に穴が開いたように映っていることでしょう。
言わずもがなですが、麓は垂直に切り立っているわけではありません。ですから見た目は途中まで斜めに裂いた筒のような不完全な状態です。
ただしすでに張られた円筒形の結界は永久に存在しますので、ダロワ殿が横たわれるために掘られた溝の辺りまでは、存在を隠すために壁で囲われることになっておりました。
『では行くぞ』
「はい」
ブレス一発につき瞳への口づけ一回。私がついていくのは、この彼の望みを叶えるためです。
そして私を背に乗せると、先だっての言葉通り羽ばたきなしでトンネルの奥へと飛び進みました。
「結界が光っているようですが、これも永久なのですか?」
『うむ。外光を通すようにした。故に陽が落ちれば暗くなる』
「では灯りは必要ということですわね」
『風除けの内側にヒカリソウを植えればよかろう』
ヒカリソウとは洞窟などに自生しており、魔力を養分とするため水や光を必要とせず、暗くなると自然に発光する植物です。そのため人の手で維持するためには定期的に魔力を与えなければなりません。
『魔力は結界から吸収出来るはずだ』
「では帰ったら早速手配するよう、父上さまに申し上げますわ」
『戻るぞ』
ブレスを十六回撃ったところで、ダロワ殿が私を背に乗せながら言いました。進んだ距離はおよそ百六十キロ。当初の百五十キロから延びたのは、軌道を斜めに修正したからです。
なお、最後の開通は山脈の反対側、つまりノース帝国側からブレスを撃ち込む必要がありました。そうでなければあちら側にブレスが突き抜け、大惨事になってしまうからです。
当然、北側の出入り口にも溝は掘られております。
ダロワ殿はこれまでの道のりを十分足らずで引き返すと、そのまま上昇してカラクマラヤ山脈を越えました。そしてノース帝国東側領とミレネー領の国境に築かれた、出入り口付近の溝に体を横たえます。
もちろん、こちら側でも厳戒態勢は変わらず、周囲には兵士たちの姿しかありません。ただ彼らには私たちの姿は見えておらず、いつ来るのかということも伝えられておりませんでしたので、退屈そうで気の毒に思えてしまいました。
もっともそれもここまでです。気をつけていなければ分からない程度でしたが、さすがは兵士といったところでしょう。結界から漏れたわずかな震動に多くの者たちが身構え、麓に目をやって一瞬の沈黙。そこから大歓声が巻き起こりました。
「開通……したのですわよね?」
『無論だ』
私がこう漏らしたのは、本当にあちら側と繋がったかどうかが分からなかったからです。さすがに百七十キロ近い距離ともなれば、一直線といえども反対側など見えませんので。
それから私たちは再び山脈を越えて、南側の出入り口で待つ父上さまの許に向かうのでした。
////あとがき////
すみません。作品のクオリティーを上げるため、1週間から2週間程度更新をお休みします。
一応第六章はこれで終了です。
今後ともよろしくお願い致します。
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